逮捕されたのは栃木県小山市在住の当時23歳の男性。世田谷署の調べによると、この男は1975年5月、小山市内の映画館で山口と三浦友和が主演した映画『潮騒』(監督・西河克己)を見て、あるシーンに激怒。配給会社である東宝のスタジオに火をつけようと計画した、というのだ。
男が激怒したシーンというのが、『潮騒』で最も有名なシーンである焚き火のシーン。バスタオル一枚の山口とふんどし姿の三浦が抱き合う姿が印象的なこのシーンは、当時16歳だった山口が体当たりで演じ大きな話題となったのが、大の百恵ファンだったこの男は「東宝が俺の百恵ちゃんをヌードにさせた!許さん!」と激昂したという。
映画を見終わった後も、怒り冷めやらぬ男は、『潮騒』の撮影が行われた東宝スタジオへ行き全焼させることを決意した、というわけだ。
さて、この男、元から爆発物に造詣があったのか、放火の3週間前に下見を行った上でマイカーに1.8リットルのガソリン、ロウソク10本あまりを積み込み小山市を出発した。なお、ロウソクを持っていったのはお手製の事件爆弾を作るつもりであったとされている。
しかし、下見には行ったものの、スタジオのある世田谷区に入ったところで道に迷ってしまい、一方通行を逆走してしまった。その結果、警官に見つかってしまい、放火計画も同時にバレてしまったというわけだ。
ちなみに当時の記事によると、この過激なアイドルマニアが捕まった際の出で立ちは異様そのものだったという。体にはナイフをはじめさまざまな工事道具、護身用として腹の周りに新聞紙を巻き付け、厚めのズボンを2本も着用する念の入れようだった。
さらには、捕まった際に自殺するため睡眠薬62錠を右足に隠しており、失敗した場合は睡眠薬を一気飲みし死を選ぶつもりだったようだ。
なお、『潮騒』の公開から5年後の1980年、山口は三浦とゴールイン。そのニュースの時、百恵ファンの放火男の胸中は果たしていかがなものだったのか……。