「最後のニュースをお伝えます。我がチャンネルはありのままの情報をお届けしています。今から私は本邦初公開となる、自殺の瞬間をお見せします」
と視聴者へと語りかけ、隠し持っていた拳銃を自身の側頭部へ銃口を当て、自殺してしまった。スタッフは慌てて場面を切り替えようとしたものの、生放送だったために間に合わず、女性キャスターの血や脳の一部がテレビ画面に堂々と映し出されてしまい、自殺の瞬間が全米で放送されてしまった……というものだ。
この都市伝説は、一部では誰かの「作り話」と取られる場合もあるようだが、細部に若干の違いはあるものの、「自殺の生中継」という最悪の放送事故は本当にあったお話だ。
時期は1974年7月15日、自殺を行ったのはクリスティーン・チュバックという29歳の女性キャスターで、当時彼女は午前放送のニュース番組「サンコースト・ダイジェスト」を担当。当時の新聞資料などによると、クリスティーンは自殺の日、いつも通りにニュースを読んでいたが、突然「これから流血事件をカラーでお伝えます」(※諸説アリ)と視聴者へと語り出し、拳銃を取り出し即、頭部を打ち抜いたのだ。
この事件は当時の日本の新聞にも掲載され、「テレビ番組で自殺を実演」という見出しで社会面に登場している。なお、当時の新聞資料によると、クリスティーンが自殺を図った直後、画面は消え、映画番組へと差し替えられたという。
自殺直後の番組差し替えが比較的スムーズだったのは、クリスティーンは以前からスタッフに対し、自殺を仄めかすような言葉を伝えていたほか、友人には、自殺計画の全容を書いた本人直筆のニュース原稿を託していたため、事前準備があったようだ。
このクリスティーンの自殺した瞬間の映像は、長らく視聴できない状態だったが、最近では、当時の家庭用ビデオで録画されたと思われる白黒映像の発掘や、クリスティーンの半生を描いた映画作品などが公開されており、史上最悪の放送事故事件の全容は少しずつ明らかになっているようだ。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)