この結果、これまで瀧容疑者が出演してきたドラマ・映画が、数多く視聴を制限されるのではないかと噂されており、特に、現在放送されているNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』は瀧容疑者が主人公・金栗四三がオリンピックで使用する足袋を作る足袋職人としてレギュラー出演しており、この先も、多くの出番が残っているという。
大河ドラマ放送中に出演者が薬物使用によって逮捕されるのは、前代未聞の出来事であり、NHKは今後、瀧容疑者の出演シーンをどうするのか協議を重ねているという。
さて、スケジュール管理も含めて「業界で最も時間に厳しい」とされるNHK大河ドラマ。大規模ゆえに、出演する俳優は徹底的な健康管理が要求されるのだが、実は50年以上の歴史を誇る大河ドラマでは、前代未聞の「主役交代」となった作品が一本だけ存在する。
それが、1974年に放送された『勝海舟』である。
主役である勝海舟は渡哲也が演じていたが、渡が第9回まで務めた後、肋膜炎により倒れ降板。第10回目からは松方弘樹が勝海舟として演じるというハプニングがあった。渡から松方へとバトンタッチが行われた際は、NHK側もタイミングを見計らったようで、渡は青年期、松方は壮年期ということでパート分けがなされたが、やはり無理があったようで、当時の新聞記事などを読むと、松方は「映画育ちゆえドラマ撮影に付いていくのが大変」「芝居は最初に演じた人がいいに決まっている」と記者のインタビューに答えており、やはり苦労はあったようで、1974年11月には『勝海舟』の撮影をすべて終えた松方が、朝日新聞の記者に対し、「所詮、オレは渡くんの代替部品だったんだ」「NHKにはもう出演しない」と不満をぶつけている。
松方がNHKに対し憤怒した背景には、不測の事態で代役で入った松方に対しての、NHKのアフターフォローが足りなかったこと、脚本を担当していた倉本聰が途中で脚本を降板したことについて、松方に誰も知らせなかったことに起因しているという。
松方は公言通り、NHKドラマには出演しない姿勢を崩さず、それは2000年代に入るまで貫いた。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)