犬を扱った作品といえば、邦画に目を移すと、『ハチ公物語』や『クイール』など、犬の健気な姿や、悲劇性を卑怯なまでに強調したとにかく泣かせようとする“感動作”が多い。本作も難病の子供と犬の感動的物語が展開される…、訳ないんだよなー。
本作は、病気がちな子どもとその家族が1匹の可愛いダックスフントを飼いはじめるが、問題ばかり起こすため手放すことに。その後、崖っぷちに立たされた映画学校講師兼脚本家や偏屈な老女ら、一癖も二癖もある人々の手をダックスフントが渡り歩いていく。強烈な個性の登場人物を演じるのは『ビフォア・ミッドナイト』のジュリー・デルピー、『ツインズ』のダニー・デヴィート、『アリスの恋』のエレン・バースティンといった名優たちだ。
犬が複数の飼い主を渡り歩くという方法は、犬の数奇な運命を強調でき、観客を泣かせにいけるかなり強い武器になる。しかしそこはソロンズ作品。犬とのつながりではなく、ブラックユーモアたっぷりに登場人物たちのどうしょもなさが描かれる。序盤から、子供に「なぜ犬に不妊手術をするの?」と聞かれた母親が、驚愕のホラ話をするなど問題シーンの連続である。終盤には爆弾を背負った犬に大騒ぎとなり、爆弾処理班が出動する場面も。崖っぷちの脚本家が追い詰められるシーンも、ソロンズの実体験なのかは定かではないが、皮肉タップリだ。
この作品、ことごとく大人達に余裕がないので、後半になるにつれ、犬に人間が振り回されるのではなく、人間の方が犬を振り回すような状況になっていく。その際の、とんでもない言動や、奇怪な行動が笑いどころとなる。
また、そんなに長尺の映画ではないのに、劇中で昔の3時間超え作品であったような“インターミッション映像”が流れるのも注目点だ。これがまたダックスフントがアメリカ各地を歩き回るという謎映像に、ダックスフントの愛称である「wiener dog(ウィンナードッグ)」を連呼する歌が挿入されるシュールなものとなっている。
最後のオチは色んな意味で衝撃的。ある意味、漫☆画太郎の漫画のような強引な締め方だ。ふざけているように見えて、現在のアメリカに対する皮肉や、無責任に犬を飼う人への批判なども込められているので、その部分にも注目して欲しい。
『トッド・ソロンズの子犬物語』は2017年1月14日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国ロードショー。(斎藤雅道)
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