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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 恫喝と強要

 1月11日に開かれたトランプ新大統領の会見は、「大統領職が近づけば、慎重な姿勢と物言いに転ずるだろう」という世界の期待を、根底から打ち砕くことになった。

 トランプ大統領は大荒れだった。ロシアでの女性スキャンダルをにおわす報道をしていたCNNに対して、「ウソつきニュース」と断じ、CNN記者からの質問を無視し続けた。しかし、ネットメディアのバズフィードが報じたところによると、トランプ氏のロシアのホテルでの乱痴気騒ぎは、ロシア連邦保安庁によって盗聴・盗撮されていた可能性がある。
 つまり、このスキャンダルが事実なら、その盗撮映像をネタにトランプ氏がロシアからゆすられる可能性があるのだ。それは、外交上の大問題だから、トランプ氏は、丁寧に事実を説明する責任があったはずだ。ところが実際には、トランプ氏は激高し、メディアを恫喝したのだ。

 日本との関係でも、トランプ氏は、「我々の貿易協定は災難だ。中国、日本、メキシコなどに対して数千億ドルの貿易赤字を抱えている」と名指しで批判し、貿易不均衡の是正に取り組むとした。
 いったい何をやろうとしているのか。トランプ氏は自身のやり方をネゴシエーションとディール(交渉と取引)と呼んでいる。しかし、その実態は、恫喝と強要だ。

 それはすでに表面化している。1月5日に、トランプ氏は、トヨタが建設を計画しているメキシコ・カローラ工場について、「とんでもない! アメリカ国内に工場を作れ。さもなければ、高い国境税を払え」と警告した。慌てたトヨタは、今後5年間で米国に1兆円以上の投資をする方針を表明した。
 多くのメディアは国境税を“関税”と訳したが、それは正確ではない。関税はWTO(世界貿易機関)との関係で、引き上げることが難しいからだ。それでは、何をするのか。
 実は、'88年に米国は包括通商法にスーパー301条と呼ばれる条項を追加した。不公正な貿易慣行を持つ国を通商代表部が特定して改善を求める。それに従わない場合は、その国からの輸入品に対して関税引き上げなどの報復措置を取る。おそらくトランプ氏は、同じような枠組みを考えているのではないだろうか。だから、国境税は報復関税と訳すべきなのだ。

 米国財務省は、すでに昨年4月に、中国、日本、ドイツ、韓国、台湾を為替監視国リストに入れている。それをさらに一歩進めて、「日本を為替操作国に認定し、もし自ら円高誘導をしなければ、日本の自動車や電機に高い関税を課すぞ」という恫喝を、トランプ氏はしてくるのではないだろうか。
 '85年のプラザ合意では、米国の圧力で急激な円高が強要された。それまで1ドル=240円程度だった為替レートは、たった1年で150円になり、さらに1年後には120円になった。その後の日本経済は、円高不況に苦しんだのだが、少し長い期間で振り返ると、このプラザ合意こそが、日本の高度成長に終止符を打ったのだ。
 トランプ氏は、その悪夢を甦らせようとしているのではないか。株価のトランプ・バブルに踊っている場合ではないのだ。

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