プロ野球のチームも会社組織である。上司(監督、コーチ)が代われば、戦略も変わる。戦略が変われば、そこに登用される選手も前政権と全く同じというわけにはいかなくなる。そして、リーグ覇者になればもちろんだが、優勝戦線を戦える地力が養われれば、当然、その先を目指す。ファンも勝たなければ納得しないだろう。こうした組織の変貌によって、弾き出されてしまった選手もいる。
トライアウトのシート打撃12組目、元阪神タイガース・西村憲投手(28)は規定された対戦打者3人と対戦し、全て凡打に打ち取ってみせた。
「初めて手術で(回復までに)時間が掛かってしまいました。不安も痛みもないし、元気に泣けることができたのでそれがいちばんの収穫だと思います」
西村は2012年オフ、右肘にメスを入れた。翌13年は二軍戦に登板したものの(24試合)、14年は一軍に帰って来られなかった。同年オフ、チームは「球団創設80周年の来季を優勝で飾りたい」とし、大型補強のための準備に入った。そのとき、西村も“整理”されてしまったのだが、BCリーグ・石川ミリオンスターズに拾われ、復活した。
15年、西村は26試合に登板し、防御率0.00。登板するときは「ゼロに抑える」と自らに課し、投げる予定のない日もブルペンに入り、徹底的に投げ込み練習を続けてきたという。
「もっとスピードが出ると思います。力、バランス感覚ももっと良くなるだろうって実感しています」
独立リーグでの一年が再起のためのインターバル期間となったのだ。また、元巨人育成の渡辺貴洋(23)は外野手になって、再チャレンジしてきた。
渡辺は高校卒業後、地元の新潟アルビレックスBCに入団。140キロ台半ばの球速を誇る左投手として期待されたが、巨人育成のユニフォームを着ていたのは僅か2年。その後、新潟アルビレックスBCに戻り、『投手兼外野手』の二刀流となった。高校時代から打撃力にも定評はあったが、“貴重な左投手”である。変則ぎみの投球フォームでもあるため、巨人も投手で育ててみたいと思っていた。今年のトライアウトは外野手一本での受験であり、左打席から繰り出す彼のバットスイングの速さに目を奪われる関係者も少なくなかった。西村、渡辺の姿を見ると、独立リーグの存在意義が再認識できる。
また、34歳のベテラン左腕・正田樹は四国アイランドリーグplusの愛媛マンダリンパイレーツで2015年のシーズンを過ごしていた。日本ハム、阪神、ヤクルト、台湾など国内外のリーグを経験し、「その経験の全てが糧になった」と話していた。
「トライアウトは何回受けても緊張しますね。球種は増えていますし、いろいろなことを経験してきて、それが出せたと思います」
正田はそう言って会場を後にした。
独立リーグのプレーヤーたちは経済的には恵まれていないが、独立リーグからの帰還者が一軍で活躍すれば、状況も変わってくるかもしれない。「野球を続ける」とは、夢を諦めないということなのだろう。(スポーツライター・美山和也)