「メッセンジャーは『オレが開幕投手を務めるんだ』という強い決意を持ってキャンプインしていました。藤浪は優勝を強く意識していました。開幕投手は名誉ですが、藤浪はこだわりがない」(球界関係者)
藤浪も火曜日の先発が『優勝』のためにいかに重要であるかは分かっていた。メッセンジャーと藤浪、両投手のモチベーションを巧く演出できたのも、好調なスタートを切れた要因だろう。
火曜日の先発といえば、前回4月12日、藤浪はバースデー登板ともなった。勝ち投手にはなったものの、7回途中で降板した悔しさを口にしたのは既報通り。しかし、金本監督が記者団に語った藤浪評は興味深い。
「藤浪は(途中降板したことを指して)ダメだったとか言うと思うよ。でも、ダメでも勝ったことは大きいんだ」
単にチームが勝利したから藤浪を労ったのではない。また、金本監督は就任当初から藤浪に厳しく当たり、傲慢にならないよう教育していく旨も明かしていた。なのに、変化球主体で本調子ではなかった藤浪に“優しい言葉”を掛けたのは、何故か…。『エースになるための階段』を着実に上がっていると見たからだろう。金本監督は藤浪にこんな言葉も掛けていた。
「今日はアイツが投げているから、勝たせてやりたいと思われる投手になれ」
金本監督の思い描くエース像でもあった。そして、どうすればそうなれるのかを藤浪に考えさせた。
バースデー登板の日、藤浪はスリーベースヒットを放つなど積極果敢な姿も見せている。4月5日の巨人戦でもそうだった。一塁に出塁すると、次打者のヒットで一気に三塁まで進んだ。積極的な走塁はチームスローガン・超変革の必須事項でもある。
だが、藤浪の成長を確信できたのは翌6日の試合前だった。阪神ナインは巨人との2戦目に備え、打撃練習をしていた。そのとき、藤浪は一塁後方で走塁練習を独りで行っていた。前日先発しているため、完全休養日に充てたとしても許されたはず。前出のチーム関係者によれば、藤浪はチームを奮い立たせた三塁への激走を『反省』していたという。
「二塁ベース手前で、三塁コーチャーの指示を確認するタイミングを間違ってしまいました。そのため、二塁ベースを蹴るときにぎこちない走り方をしてしまい、そのことを反省していました。同じ失敗を繰り返したくないとし、必死に走塁練習をしていました」(同)
その貪欲な姿勢と必死さは他のナインも見ている。藤浪は野球に真摯に取り組み、必死になることで金本監督の描くエース像に近づこうとしているのではないだろうか。
6連戦の初戦となる4月19日火曜日。藤浪は4点を失い、5回でマウンドを下りた。8回裏にヤクルト救援陣を打ち込み、チームは勝利したが、藤浪の表情は晴れなかった。
「野手が点を取ってくれた後に失点し…」
金本監督は取り囲む記者団にこう言った。
「次回、ちゃんと修正してくれれば何の問題もない。負けなかったことが大きいんだ」
勝つことへの執念。高山、横田も頑張っているが、超変革の本当の象徴は藤浪ではないだろうか。
※4月19日、金本知憲監督と藤浪晋太郎の試合後のコメントは共同通信等を参考といたしました。