正二塁手争いを上本、大和、西岡剛が繰り広げ、梅野隆太郎と新人・坂本誠志朗が正捕手の座を争う。指揮官の言葉を借りれば、今年の阪神は投手を除く8つのポジションのうち、3つしか埋まっていないという。決まっているのは、遊撃手・鳥谷、右翼手・福留孝介、一塁手・ゴメス。残り5つは力のある者を使う、と…。この横一線の競争は良い意味での副産物を生んだ。しかし、首脳陣もある程度計算していた選手がいたはず。「レギュラーに近い」と目されていた選手の不調がちょっと気になる。
まず、正二塁手争いはオープン戦終盤までもつれ込むだろう。外野でゴールデングラブ賞を獲った大和のコンバートはもったいない気もしたが、内野ノックを見ていると何年も二塁を守っていたような軽快さである。上本博紀もいい。経験値の高い西岡も近年でいちばん動きが良いのではないだろうか。
対照的に、三塁手争いは“本命不在”だ。新外国人選手のヘイグは変化球の多い日本人投手に対応できるのだろうか。紅白戦(2月11日)で2安打を放ったが、打ったのは全て真っ直ぐ。「打ってアピールしなさい」と言わんばかりの真ん中やや外目の投球だった。バットが下から出るスイングで、振り切った後、体重が前に流れる。素人判断だが、高めの速いボール、内角の変化球に苦しむのではないだろうか。
「外国人選手は開幕に合わせて調整する。金本監督はヘイグに評価を下すのはオープン戦終盤」(チーム関係者)
三塁の守備力だが、新井良、今成のほうが巧い。ヘイグの守備練習を見ていると、エラーはしないのだが、捕球がぎこちない。ただ、投内連携プレーでは光るものがあった。短い距離でのスナップスローが物凄く良い。このヘイグのバットが金本監督の期待通り、オープン戦終盤で爆発するのであれば、米国時代と同じ一塁か外野にコンバートしたほうがいい。もっとも、一塁にはゴメスがいて、外野は「ライト福留」以外のセンター、レフトしか空いていない。この2つの外野ポジションを江越大賀、横田慎太郎、伊藤隼太、中谷将大らが争い、かつ二軍には期待の新人・高山俊が控えている。金本監督は今成にも外野の練習をさせている。正二塁手争いを繰り広げている上本、西岡、大和は打撃も好調なだけに、上本は昨秋キャンプから外野の練習もしているので、「二塁・西岡、外野で大和、上本を使う」という展開に変わるかもしれない。
ヘイグは三塁しか守るところがなく、打撃でアピールできなければ、新井良、今成、もしくは、去年と同じ「三塁・西岡」も考えるだろう。金本監督は上本、大和、西岡の3人とも使いたいのではないだろうか。
投手陣だが、藤浪晋太郎がスローペースで調整していた。スピードガンでは156キロをマークした日もあったが、昨季中盤以降に見せた「浮き上がってくる直球」には程遠い。おそらく、昨秋の侍ジャパン招集を辞退した右肩の炎症により、大事を取っているものと思われるが、メッセンジャー、能見がかなりハイペースで仕上げているだけに、一抹の不安は残った。
能見篤史はストレートの質が変わったように思う。ベテランの技巧派投手であり、近年は変化球主体のピッチングを組み立てていた。ストレートも球速を抑え、ストライクコースギリギリを狙っているイメージだったが、強いボールを投げていた。
左腕・岩崎優も良い。キレのあるボールを低めに投げ込んでおり、「何で、去年10敗もしたんだろう?」と不思議に思ったほどだ。
新クローザー候補のマテオだが、こちらも金本監督は開幕直前まで、「本当にクローザーを託せるのかどうか」で悩むのではないだろうか。前評判よりも制球力がある。あくまでもキャンプ前半での投球を見た限りだが、低めに投げるとき、球速が落ちる。一部報道によれば、「スペアとして獲得したドリスのほうが上」とあった。金本監督はゴメス、ヘイグ、メッセンジャー、マテオで外国人枠4人を予定しているそうだが、ヘイグのバットが火を噴かなければ、ゴメスと投手3人の開幕も十分に考えられる。
縦のスライダーがマテオの武器と紹介されているが、そのウイニングショットはコントロールできていないように見えた。縦の曲がり幅は大きく、鋭角だ。しかし、捕手が内角に構えても外角に行ってしまうのだ。制球力はストレートだけではないだろうか。
マテオは入団会見で「160キロを出せる」と話していたが、そんなにスピードは出ないように思う。振りかぶったときに、対戦打者方面にちょっと背中を向ける。その横の遠心力を使ってスリークオーター気味に投げるが、この投げ方からして、160キロは出ないのではないだろうか。但し、右打者は見にくい。1イニングなら十分に通用すると思うが、対戦打者にスライダーを見送られたときにどうなるか、ちょっと不安だ。
福原、安藤のベテランセットアッパーは健在だ。ここにFA補強した左腕・高橋聡文がいて、松田遼馬、歳内宏明も逞しくなってきた。ひょっとしたら、新クローザーの座を射止めるのは、マテオでもドリスでもなく、歳内かもしれない。計7人のリリーフ投手を注ぎ込み、相手チームとの相性で7人のうちの誰かに9回を託す“日替わり”もあり得る。
今年、狩野恵輔(33)が再クローズアップされるのではないだろうか。近年は主に代打。登録は捕手だが、守備に着くとしても外野だった。スイングと打球に鋭くなった。この好調さが本物なら、代打要員ではもったいないと思った。今成は三塁、二塁、捕手、外野と、守備練習で複数のポジションをこなしていた。調子を落とした選手がいたら、そこに今成をはめる構想だとしたら、今成が打のキーマンになるのではないだろうか。