3月31日の東京ヤクルトとの一戦は6対6の引き分け、5時間を越す長期戦となった。試合後、金本知憲監督(47)が記者団に囲まれる。球場外にあるクラブハウスまでの道すがら、まず指揮官の口から出たのは「できれば勝ちたかったけど、流れが悪いなか、よく負けなかった。負けなかったというほうが大きい」という、疲労感タップリのコメントだった。記者団が聞きたかったのは、新守護神のマルコス・マテオ(31)を3イニングも投げさせたこと。
「(3イニング目の)11回表にリードしたから」
そう答えると、さらにこう続けた。
「投手交代は矢野(燿大作戦兼バッテリーコーチ)と香田(勲男投手コーチ)に任せているから」
その言葉通りだとしたら、続投は両コーチの判断ということになる。最後の12回裏のマウンドに上がった榎田大樹(29)は走者こそ許したが、2三振を奪っている。マテオに繋ぐ貴重な左のセットアッパーであり、今季は絶好調である。仮説の話をしても仕方ないが、1点リードを奪った11回のマウンドをこの榎田に託していたら、試合結果は変わっていただろうか。
「マテオは3イニングを投げた31日の試合が4試合目の登板です。31日は61球を投げており、登板過多。本人は『疲れていない』と言いますが、ちょっと心配ですね」(プロ野球解説者)
その点は指揮官も分かっていたはずだ。
11回に勝ち越した「1点」を守るため、金本監督と矢野、香田両コーチはマテオを続投させるべきと判断した。この日、阪神は8人のピッチャーをベンチ入りさせていた。マテオは6番手で登板しており、あとは榎田と同日一軍登録した金田和之(25)しか残っていなかった。
「榎田の好調さは金本監督も認識していたはず。キャンプ中盤、臨時コーチを務めた下柳剛氏が『今年の榎田はいい』と伝えていましたから」(チーム関係者)
結果論だが、それでも、マテオを続投させたほうがいいと判断したのだろう。
「マテオのスライダーは対戦打者の左右に関係なく、打ちにくい。阪神首脳陣はそう判断しています」(前出・同)
5時間を越すこの死闘をネット裏から見ていたライバル球団のスコアラーがこう言う。
「(マテオの)スライダーの軌道をじっくり見せてもらいましたよ。ボールカウントが続くと、スライダーに頼ろうとする。まあ、対策はこれからになるけど…」
マテオを研究されると、阪神救援陣は再編を余儀なくされる。現時点でクローザータイプの投手は見当たらない。経験豊富な福原、若手の歳内をコンバートするなどのスクランブル体制になるだろう。
「開幕2節を終え、阪神の弱点は救援陣だと思いました。敗戦した3月30日がとくにそうですが、相手チームに傾いた流れ、ゲーム主導権を相手に奪われた後、その流れを断ち切ってくれるセットアッパーがいません」(前出・プロ野球解説者)
だとすれば、金本監督と矢野、香田両コーチは、好調なセットアッパーの榎田を消耗させたくないと考え、マテオに3イニング目を託したのかもしれない。また、投打ともに好調な選手が多いなか、その流れに乗れなかった唯一の選手がセットアッパーの鶴直人(28)だ。鶴は開幕戦の中日、第2節のヤクルト戦に投げている。2試合ともビハインドの場面だったが、失点を許した。その鶴を降格させ、一軍に呼び寄せたのが二軍戦で好調だった金田である。「次のDeNA戦のために金田も隠す」ために、マテオに無理をさせたのだろうか。
4月1日、そのDeNAとの初戦はマテオを休ませる予定だと発表された。他球団にジックリとマテオを研究させる機会を与えてしまったのは痛い。
「阪神OBはテレビでは金本監督を絶賛していますが、投手に盗塁のサインを出し、大砲タイプのゴメスにもスチールを強行させました。『やりすぎではないか』と心配しています。ヤクルトとの初戦で藤浪に149球を投げさせ、マテオには3イニングのロングリリーフ。まるでトーナメントの高校野球のような必勝体制なので」(関係者)
批判ではなく、心配ということだが…。
マテオと「救援陣」を天秤に懸けた采配の是非はペナントレース終了後に出る。