日本シリーズ第3戦もソフトバンクが勝った。この時点では、DeNAは「力の差を見せつけられた」わけだが、ソフトバンク陣営は違う感想を持ったという。
「試合前、打順がアナウンスされたときでした。DeNAのファンは『4番・一塁』で内川(聖一=35)がコールされ、拍手を送っていました。内川はブーイングも覚悟していたようですが」(球界関係者)
内川は2010年オフ、FA権を行使して旧横浜からソフトバンクに移籍した。「裏切られた」と思ったファンもいたのではないだろうか。横浜へ移動する途中、「古巣との対戦は?」の質問も受けたという。内川は「気にしない」と返したそうだが、シリーズ3試合目で初のお立ち台に呼ばれたとき、DeNAファンのいる一塁側スタンドにも一礼していた。敵、味方に別れても、元在籍選手が活躍したのならば、エールを送る。DeNAファンは“大人の対応”を見せたようだ。
セ・リーグ出身のプロ野球解説者がこう続ける。
「DeNAが経営母体になった今と、以前とでは、違う球団と解釈してもいい。内川たちの世代が新天地を求めた理由もファンは分かっています」
98年は絶対的守護神・佐々木主浩の活躍でリーグ優勝したが、旧横浜は万年Bクラス候補だった。「勝ちたい、優勝したい」との思いは持っていた。しかし、野球は団体競技であって、個人がどんなに活躍しても「勝てない現状」を痛感させられた。フロントと現場の関係もギクシャクしてしまった。そういった時代をファンも知っていたのだろう。新天地を求めていった選手にもエールを送った。
「19年前の日本シリーズでも同じような光景が見られました。対戦チームの西武が救援マウンドに元横浜の友利投手(現中日コーチ)を送ると、拍手とエールが送られました」(前出・同)
横浜時代の友利はその才能を開花できなかった。移籍先の西武で投球フォームも改造し、ようやく一軍に定着できたのだが、横浜ファンはその苦労と努力を素直に称賛した。
対照的な光景も見られた。今季、FAで巨人に移籍した山口俊との対戦ではブーイングを送り続けた。移籍に至った背景も大事にしているとしたら、DeNAベイスターズのファンは単に勝敗だけではなく、選手のプロ野球人生も見ているようだ。
「ソフトバンクの工藤(公康=54)監督もベイスターズに在籍していました。試合後、工藤監督がホークスナインを出迎えているのを見て、好意的に話すファンも多かったです」(スポーツ紙記者)
3連敗で、DeNAにはもう後がない。前出のプロ野球解説者によれば、敗因はデータの読み違いだという。第3戦は盗塁、エンドランを積極的に仕掛けたが、失敗した。レギュラーシーズンの盗塁はリーグ最少の39個だが、それでも、あえて走らせたのはソフトバンクのスタメン捕手・高谷にあった。高谷は盗塁阻止率が低い。また、先発投手の武田もクイックモーションがさほど早くない。こうした“データ”をもとに、機動力でソフトバンクバッテリーに揺さぶりを掛けようとしたのだ。しかし、工藤監督はそれを逆手に取り、「エンドランを仕掛けやすいストライクカウントではボール球を」「単独スチール阻止のため、武田はボール球でもいいからクイックを早く」と指示していたという。
“弱点”を逆手に罠を仕掛けたというわけだ。
「DeNA側は監督、コーチを含め、日本シリーズの経験が乏しい。短期決戦は、作戦を切り換えるタイミングが明暗を分けるんです。DeNAの若さが敗因」(プロ野球解説者)
元横浜の村田修一(36)が巨人から自由契約を通達されたが、まだ移籍先は決まっていない。一報が伝えられた当初は「すぐに決まる」との声も多く聞かれた。シリーズ中の今は、選手契約の時期ではないが、ちょっと長引きそうである。
「どのチームも若手野手の育成を急いでおり、村田の打撃力には一目を置いているものの、獲りにくい状況にあるんです。でも、かつて広島が『若手の手本に』と、FA退団した新井貴浩に救いの手を差し伸べたケースもあります」(ベテラン記者)
古巣に拾われた新井は、連覇に大きく貢献した。若手の指導役という点でも欠かせない存在になっている。DeNAの三塁には首位打者の宮崎敏郎がいて、村田自身も、かつて自ら退団を選択した引け目もあるだろう。しかし、水面下では古巣帰還説も実しやかに囁かれている。日本シリーズは今のところ、経験値の差が出ている。DeNAはベテラン・村田の帰還論をどう受け止めているのだろうか。