なかでも滞在中、著者を常に惑わせたのが19歳の現地娼婦、マリアとの出会いだ。ガラスのハートという言葉がピッタリなこの少女は、親子のように年の離れた著者を慕い、恋し、時に惑わせる。
《躁鬱の変化の烈しいマリアはニコニコしているときは相手にしやすいが、ひとたびうつにおちいると、分裂状態のなかできわどい人のためし方をする。ぼくの部屋に十七才の子を泊めて、自分は朝戻ってくるとのたまう。「アコ(私)、嫉妬心がないのよ、ほんとよ!」》
彼女の親友を目の前で抱けと著者にせまる少女の異常な嫉妬心も、小さくして働きに出なくてはならなかった寂しさ故か…。女性に娼婦以外の仕事がないともいわれるフィリピンの貧しさを見ることのできる一冊だ。(税別1000円)