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極地探検史上最悪の悲劇。フランクリン隊全滅の謎?(3)

 大西洋からカナダの北を回って太平洋へ抜ける「北西航路」を開拓するため、イギリス海軍は北極探検のエキスパートを結集した大規模な遠征隊を派遣した。遠征に際しては北極探検の英雄であるフランクリン卿が隊長を務め、当時の最新機器や施設を備えた優秀な軍艦を投入するなど、万全の体制で望んでいた。しかし、フランクリン隊は氷の海で消息を絶ち、誰一人として生還することはなかった。

 捜索隊はフランクリン隊が最初に越冬したカナダ北極圏のビーチェイ島で、病死した隊員の墓を発見し、まだ食料も十分な最初の越冬地で、早くも病死者を出していたことが明らかとなる。そして、近年の医学的調査によって埋葬遺体から通常で考えられないほど高い濃度の鉛が検出され、隊員は生前に「鉛中毒による精神的、肉体的に深刻な問題を被っていた可能性がある」ことも明らかとなった。

 鉛中毒は鉛の含まれた水や食べ物、粉塵などを体内に取り込むことで発生する。鉛中毒によって直接的に死亡することはあまりないが、食欲不振、嘔吐、便秘、激しい腹痛、骨や関節の痛み、高血圧、貧血などの症状がみられ、重症化すると人格の変化、頭痛、感覚の喪失、脱力なども発症すると言われている。

 そして、フランクリン隊で鉛中毒が発生した原因は、皮肉にも彼らが持ち込んだ当時の最新技術にあった。まず、最初に疑われたのは、保存食として持ち込まれた缶詰である。当時の缶詰は、フランクリン隊が出発する12年前の1833年に開発された「ハンダ付け法」で密封されていたものの、最新技術であったために技法として確立していなかった。実際に越冬地へ残された空き缶を調査した所、密封時のハンダ付けが不十分なために内部に鉛が漏れ、食品を汚染していた可能性が高かったのである。

 ただし、遺体から検出された鉛の濃度はあまりにも高く、缶詰の汚染による摂取ではそれほどの濃度に達しないとの指摘もある。また、英海軍では缶詰を広く用いたが、フランクリン隊ほど急激かつ深刻な鉛中毒は発生していないため、缶詰説に疑問を持つ研究者もいる。そのため、最近ではフランクリン隊を乗せた軍艦に装備された真水生成装置が鉛中毒の原因と推測する説も唱えられているが、残念ながら物的証拠は得られていない。

 とはいえ、いずれにしても当時の最新技術に問題があったことは間違いなく、フランクリン隊は技術の支援を得るどころか、お荷物を抱えて探検に望んだとさえ言えるのだ。もし、鉛中毒の原因ではなかったとしても、缶詰の問題はフランクリン隊が船を放棄し、絶望的な陸路での脱出を選択する要因になった可能性が指摘されている。

 当時の最新技術によって成功を約束されながら、フランクリン隊はその技術によって破滅を招いたかに見えるところもまた、悲劇のひとつとされるのだ。(続く)

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