それに比べると北朝鮮代表団の金永南団長(最高人民会議常任委員長)、そして金正恩党委員長の妹、与正党宣伝煽動部副部長とは昼食、夕食を共にしながら計4回も歓談している。最大の同盟国、米国のペンス副大統領との会食も1回きりだった。
「“メシ抜き”で行われた文大統領との会談に臨んだ安倍首相は、北朝鮮の五輪参加を“人質”に取られる形で延期されている米韓合同軍事演習について意見を述べましたが、文大統領は『内政干渉だ』と不快感をあらわにしました。韓国は教科書問題や靖国神社参拝問題など、しょっちゅう日本の内政に干渉しているので『あんたに言われたくはない』ということですが、それにしても今回が3回目となる両首脳会談の中で、ここまで正面衝突したことはありませんでした。慰安婦問題と経済協力などを切り離す、手前勝手な“二枚舌外交”を推し進めようとする文大統領にクギを刺した格好です」(官邸関係筋)
さらに文大統領にとって計算違いは、平昌外交に対する米国の冷ややかな目線だ。ペンス副大統領は、開幕式の前に各国の首脳らが招かれたレセプションの場で席に座ることもなく、金団長、与正氏を無視し5分ほどで退出してしまった。
「そりゃそうですよ。北朝鮮は五輪に参加する条件として、米韓軍事演習の中止を突き付けましたが、こうした動きを知っていたトランプ米大統領は敏感に反応し、1月22日、サムスンやLG製の洗濯機や太陽光パネルに高い関税を課す緊急輸入制限措置(セーフガード)に署名しています。これは北朝鮮への傾斜を強める韓国に対する警告です」(安全保障アナリスト)
米国にソッポを向かれようと、南北がタッグを組んだ反日攻勢は止まらなかった。ソウル国立中央劇場で2月11日に開かれた北朝鮮の三池淵管弦楽団2回目の公演で、玄松月団長は予告なしに『白頭(ペクト)と漢拏(ハルラ)はわが祖国』という歌を歌っただけでなく、聴衆からの支持まで呼び掛けた。
「玄団長はこの歌を『漢拏山も独島(日本名:竹島)もわが祖国です』と改詞して歌ったのです。本来の歌詞は『日が昇る白頭山はわが祖国です。済州道漢拏山もわが祖国です』でした。統一されれば韓国領ということは、北朝鮮領でもあるわけですからね。それに済州島は、正恩委員長と与正副部長の実母、高英姫の故郷ですから父母の聖地を歌い上げたわけで、玄団長の歌う姿を見ていた金団長はたびたび涙を拭い、与正副部長は満足げな笑顔を見せていました。この公演では入場料収入まで懐にしたのですから、まあ当然でしょう」(北朝鮮ウオッチャー)
しかし、こうした微笑み外交の裏では熾烈な外交戦が行われていた。中国外交のトップである楊潔チ国務委員が2月8日にティラーソン米国務長官と、9日にはトランプ大統領、マクマスター安保担当補佐官、クシュナー上級顧問らと会談している。中国はそこで改めて「朝鮮半島の緊張を緩和するには、これまで一貫して主張してきた“双暫停”しかない」と説いたのだ。
「『双暫停』とは、米国が米韓合同軍事演習を、北朝鮮が核・ミサイルの発射実験をしばらくの間、停止するというものですが、米国はあくまで停止ではなく、核放棄でなければダメだと主張しています」(国際ジャーナリスト)
一方で米国のマティス国防長官は、平昌五輪が終わるまでの間隙を縫って欧州に入っている。
「2月13日、ローマからブリュッセルへ飛んだ国防長官は、NATO加盟国すべての国防相との一連の会議をこなし、その後、ドイツのシュツットガルトで欧州とアフリカ諸国との防衛会議、ミュンヘンでの『第54回安全保障会議』でロシアとの防衛協議を行っています」(前出・アナリスト)