レースは大方の予想を裏切ってチョウサンが後続を引っ張り、テンの2F目を除いては9F通過までラップはすべて12秒台というジャパンCらしからぬ落ち着いた流れになった。
岩田騎手はアドマイヤムーンを先行馬の後ろにスッとつけると、やや行きたがる愛馬をなだめ、折り合いに専念。直線インから鮮やかに抜け出し、馬場の真ん中から猛追してくるポップロック、メイショウサムソンをアタマ+クビ差振り切った。
このレースぶり。ちょっと前に見た記憶があるようなないような…。そう、直線に入ったところで各馬がゴチャつくなか、内からスイスイとヴィクトリーロードを突き進んだ天皇賞・秋のサムソンである。今日はまさに、“目には目を”といわんばかりの絵に描いたようなリベンジ走だった。
ところが、意外だったのは大仕事をやってのけた岩田のセリフ。開口一番、「頭の中が真っ白です」と、まるで1番人気で惨敗したかのようなコメント。もっとも、今日の騎乗は決して自分で納得いくものではなかった。「スタートしてすぐ、内からポップと(コスモ)バルクが上がって行ったから、ガーッと行きたがってしまった。だから、息も入っていないし…」第三者から映る目とは違い、薄氷の勝利だったことを明かした。
それは「ただただ、馬が強かったです」のひと言にすべてが集約されていた。天皇賞・秋は直線で受けた不利で不完全燃焼…プレッシャーも想像を絶するものがあったに違いない。「微妙な差だったけど、勝ててうれしい」目に涙を浮かばせ、時折、言葉を詰まらせながら静かに喜びをかみ締めていた。
一方、松田博師も、天皇賞・秋の悔しい思いがあっただけに、感無量の様子。「今日はいつもよりゲートが良かったし、ペースが緩くていい位置も取れた。勝つときは何もかもうまくいくものだと思った。直線抜け出してきたときは『(抜け出すのが)早すぎる』と思ったけど、よく持ちこたえてくれた」
気になる今後については、「引退させて、体力が回復したら(種牡馬になるため)北海道へ戻す」とダーレーJF代表の高橋力氏。今日の勝利で国内最強の称号を取り戻しただけに、引退するにはまだ早すぎるという意見もあるが、「当初は天皇賞・秋で引退させるつもりだった。ただ、ああいうアクシデントがあって6着に終わってしまったので、悪い印象のまま引退させたくなかった」と説明した。
サムソンとの再対決を有馬記念で望むファンからすれば、この引退は何とも残念なところだが、これも将来を見据えた陣営の勇気ある決断。今は亡きエンドスウィープの後継種牡馬として、これからの活躍が期待される。