「この能力が息子と娘に遺伝しなければいいけれど…」
この不安は的中し、2人の子供にTさんの能力が遺伝してしまった。
Tさんの息子と娘は、Tさんとはまた違った力を見せるようになった。
どうやら息子は少し先の未来が見えるらしく、しばしば不気味なことを言う。ある日家族でドライブを楽しんでいたところ、息子が突然おびえた声で
「お父さん、高速道路に乗らないで」
と告げた。
息子の様子を心配したTさんの夫は
「どうしてそんなことを言うんだ?」
と、後ろのシートに座る息子に聞き返した。
「だって、高速道路で事故に遭って、お母さんが車に挟まれて死んじゃうから…」
助手席で聞いていたTさんは、息子の返答に思わず言葉を失った。
「だから…お父さんお願い…」
息子はおびえながら、そうお願いするのだ。
その日は息子の言う通り高速は避けて、ドライブを続けることになった。
とある日、仕事に行こうと準備に急ぐTさんを息子が呼び止め、こう言った。
「お母さん、今日は公園を通り抜けていかないでね」
「…え?公園?」
Tさんはときどき、通勤の際に近道しようと通っている公園がある。
この公園を通り抜ける道を見つけたのはTさんだけで、子供には通勤ルートの話をしたことはない。
Tさんにしか分からない道を、息子が知っていることに不気味に感じ、Tさんは聞き返した。
「どうして今日はそんなことを言うの?」
「だって公園を通ったら、お母さんが誰かに縄で縛られて、脇腹を刺されて死んじゃうんだもの…」
その日は息子の不安そうな様子が頭から離れず、Tさんは違う道を使って通勤した。
息子だけではなく、娘にも霊視能力があるようだ。
ある日、自宅のマンションのエントランスで娘を抱っこしていると、娘が肩越しに手を振り
「バイバーイ!」
と、誰かに別れを告げた。近所の人かと思ったTさんは娘が手を振る先に視線を向けたが、誰かいた気配はない。
「何…!誰にお別れを言ったの?」
すると娘は、まるで「言いたくない」と言わんばかりに顔をTさんの胸にうずめて
「…」
何も答えなかった。
Tさんはその様子を察して、仕方なくそのままエレベーターに乗り自宅のフロアに上がった。娘がとても大人しいので、Tさんは不思議に思った。
玄関のドアの鍵を開け、ノブに手をかけながら娘を抱き直した時、娘は小さく泣きそうな声でTさんにささやいた。
「またいるよ…」
Tさんはすぐさま娘を抱いて部屋の中に入った。
2人の子供に自分の力が遺伝したことを、Tさんは不安に感じている。
子供たちが自分の能力を怖がらないように、Tさんは母として自分の「能力」を2人に伝えようと決めたのであった。
(山口敏太郎)