敗軍の将は兵を語らないものだが、星野監督はその哲学を持ち合わせていなかったようだ。北京五輪で負けが込むにつれて、敗因を国際試合の欠陥のせいにした。その最たるものが、審判の判定。「ストライクゾーンが審判によって違いすぎる。プロにさせないと、試合にならない」と何度、言ったことか。
しかし、これはどの国のチームにも共通していたこと。「審判に応じて対策を立てるのは指揮官なら当然。打者には(判定が)1球ごとに判定が変わったとしても、動揺しないように」と覚悟させた代表監督がほとんど。
監督の動揺は、選手に伝わる。競り合った試合をことごとく落としたのはそんな背景があったと言えなくはないだろう。
帰国後の星野は「責任はすべて指揮官である自分にある」と謝罪した。しかし、敗因を問われて答えるあたりに“男・星野”の潔さを信じて疑わない熱烈ファンは、がっかりさせられたのではないか。スポーツ紙デスクは星野監督の心中を、こう解説する。
「国際試合で指揮するのは今回が初めて。口にこそ出さないが、“1回失敗したくらいで慌てなさんな”と思っているのではないか。だからWBC監督を打診されていたことを明かし、リベンジをあきらめていないと、それとなく言っている。今は嵐が通り過ぎるのを待っているだけしょう」
北京五輪で金メダルを取っていればWBCの監督になり、さらにその次も約束されていた。巨人の監督だ。球界の長老が解説する。
「巨人の監督は野球人のあこがれ。星野は読売新聞本社グループの渡辺恒雄会長から請われて、05年には星野巨人監督が誕生する寸前まで行った。それが巨人OBらの反対でご破算になったが、この話はまだ生きている。北京五輪で優勝してからというのが、その筋書き。まぁ、今回の敗戦でまた(巨人監督就任が)延びたのは確かだが、渡辺さんも星野もあきらめてはいないよ」
きのう、渡辺会長が「(WBCも)星野監督しか適任者はいないだろう」とブチ上げたのは、そんな背景があったからにほかならない。WBCの監督になり、北京五輪のリベンジを果たせるようならガ然、現実味を帯びてくるのだが、ここに来て強力なライバルが浮上している。野村楽天監督がその仕掛け人だ。
北京五輪での惨敗が決まるや、星野批判の先陣を切ったのが野村監督。ソフトバンクとの試合が雨で流れたのもあったが、五輪でプロ野球が蚊帳の外に置かれていたうっ憤を晴らすかのようだった。批判の本筋は、集めていたはずのデータの使い方と投手出身監督の欠陥。
「データ重視、ID野球の創始者ですから話し始めたら止まるわけがない。星野ジャパンのスコアラーが収集したライバル国のデータが生かされなかったのを『宝の持ち腐れだな』とばっさり。キャッチャー阿部のリードのまずさを挙げ、オープン戦で不調だった岩瀬を選出したことに疑問を投げかけた」と、スポーツ紙デスク。
さらに続けて、「極め付きは星野監督そのものに向けられた矛先。投手出身は野手出身の監督に比べると、試合の流れを見る目に欠けるとまで言っている。楽天が好調なら説得力がありますが、今の状態ではなあ、と現場に居合わせた者は苦笑するしかなかったらしい」
対照的だったのがソフトバンクの王監督。国際試合の難しさを指摘しただけではない。星野ジャパンをバッシングするとき、その筆頭に挙げられた中継ぎ投手の選択についても、星野監督を庇うかのようだった。
「王は前回のWBCで国際戦の厳しさを、身を持って体験した。とても野村のような物言いはできなかったのではないか」(前出・球界の長老)
立場の違いではあるが、それだけではないと言うのがスポーツ紙デスク。野村監督には、ある思惑があるという。
「9月1日に日本プロ野球組織(NPB)の実行委員会が開かれます。そこでWBCの監督人事が議題に上る予定で、そこに向けてのメッセージだったのではないか。つまり、星野監督ではダメでほかの監督を探せと。野村監督の頭にあるのはズバリ古田です」
現在、フリーといっていい古田なら説得力がある。ヤクルトで監督を務め、国際試合の経験も豊富。うるさ型のイチローも納得せざるを得ないだろう。
「(古田氏が)監督として実績がない、まだ若すぎるというなら、野村監督が総監督になればいい。教え子の古田を表に立てて実際の指揮は野村監督が取ったとしても、文句は出ないでしょう」(前出・スポーツ紙デスク)
策士として並び称される野村監督と星野監督。WBC監督を巡ってバトルの第一幕が、いよいよ切って落とされようとしている。