その数は県採用分で89人、さいたま市採用分で21人の計110人にも及ぶ。なかには、学級担任や教頭も含まれる。県教育局では教頭は補充し、小学校教員は教務主任でカバー、中学校は「臨時的任用教員」(臨時教員)を充て、高校は副担任で補う。教員ではない県職員でも、約30人が駆け込み退職する予定だが、管理職は含まれていない。
この異常事態に、上田清司知事は1月21日の定例記者会見で、「辞めるのは自由だが、世の中の批判を受けると思う。学級担任が残り2カ月で辞めるのは無責任のそしりを免れない」と、あきれ果てた。
原因となっているのは官民格差を是正するため、昨年11月に成立した改正国家公務員退職手当法(1月1日付施行)。これに伴い、総務省は自治体職員の退職手当(退職金)引き下げを自治体に要請。埼玉県では県議会が昨年末に改正条例を可決し、2月1日付で施行され、14年8月までに平均約400万円が段階的に引き下げられる。全国では1月1日からの施行は7都県、2月1日からは埼玉県を含む3県、3月中の施行が22道府県、4月1日からが12府県、未定が3県となっている。
県教育委員会によると、勤続35年以上で月給約40万円の平均的な教員の場合、改正後は退職金が約150万円減る。だが1月末に退職すれば、受け取れない2月と3月の2カ月の給与分約80万円を差し引いても、約70万円多く懐に入る計算になる。
同様の動きは愛知県警でも起きている。同県では3月1日付で条例が施行されるため、定年を前に2月末で退職する警察官が相次いでいる。3月末に定年退職を迎える県警の警察官と職員289人のうち、なんと約半数の142人が2月中に退職する意向を示しているという。3月末に退職した場合、2月中に退職するより、平均で退職手当が約150万円減額される。署長クラスなど補充が不可欠な幹部もいるとみられ、県警では例年3月に行っている定期異動を2月に前倒しするなどの検討がなされている。
さらに、兵庫県警や佐賀県、徳島県の教員でも、同じような動きが顕著にみられている。3月に条例が施行される京都府警では対応策として、2月末で駆け込み退職する警察官に、3月の1カ月限定での再任用を提示しているという。再任用の場合、職場、階級は変わらずフルタイム勤務となるが、給与は退職前の7割程度になる。
いつ退職するかは個人の自由ではあるが、教員も警察官も社会的に責任ある職業。特に教員は「生徒」という相手があっての仕事だけに、年度途中の退職には「無責任」との批判も免れない。ただ、問題の本質が“カネ”だけに、当事者にとっては深刻な問題。「100万円以上の退職手当の減額を受け入れろというのは酷。なぜ条例の施行を4月以降にしてくれなかったのか」との声も聞かれる。
(蔵元英二)