放送が好評で反響があったのは事実だが、パニックが起きたというのは噂を元にした都市伝説とみるのが正しいようだ。
だが、中には実際にネタで放送したニュースで騒動が起きてしまったケースもある。
1967年、スイスのラジオ放送局は「アメリカの宇宙飛行士がたった今、月に着陸した」と発表した。
この放送はスイス国内すべてのドイツ語ラジオ放送局で流され、予定されていた番組を中断するニュースフラッシュから始まり1時間続いた。世界中の都市にいるラジオ特派員からの報告や、専門家とのインタビューが挟み込まれ、スタジオにいる人々の音声やタイムラグも再現されていた。
このニュースを聞いた多くの人々が驚き、ラジオの内容を確認しようと友人にニュースを共有しようとして、電話回線がパンクしてしまった程だった。スイスの米国当局でさえニュースが真実か否か解らず、スイス国内にいたアメリカ人はラジオを聞いて祝杯をあげるほどだったという。
さらに、「夜になると月から帰還するロケットが見えるだろう」と放送され、高い所からの方がより見えるとのアドバイスを受け山に登る人が急増。山へ向かう鉄道の会社が臨時列車を運行させるほどの騒動になった。
だが、この放送が行われたのは4月1日。単なるエイプリルフールのネタだったのであるが、あまりにリアルな放送内容だったため1時間程度の内容にも関わらず、多くの人が騙されてしまったのである。
人類が初めて月に降り立ったのは1969年7月20日、お騒がせラジオ放送から約2年後のことであった。
文:和田大輔 取材:山口敏太郎事務所