これだけを聞くと、「給料2割もカットされて大変だな〜」と同情する向きも多いだろう。実際、まだ給料が安い若手社員にとっては、かなりの痛手となるのは間違いない。ただ、問題なのは、あくまで「年収2割削減」であって、「月給2割削減」ではない点。その内容は給与を約5%、夏冬各2カ月分ほど出ている賞与を各1カ月分ほどにカットするというもの。つまりは、この危機的状況でも、ちゃっかり賞与が支給されるというのだ。
東電社員の平均年収は約760万円。賞与が夏冬各2カ月分とすると、月給47万5000円、賞与各95万円の計算となる。これが、月給45万1250円に、賞与が各47万5000円に減ることになる。本来、賞与は会社の業績に比例して支給されるもの。業績が悪ければ、ゼロでも致し方ないところ。
被害賠償金は数兆円規模になると見られ、東電だけで支払うことは困難で、国の支援、つまりは国民の税金が投入されることは避けられないだろう。その上、沖縄電力を除く、全国の電力会社が電気料金を値上げすることで、賠償金の捻出を図る案も浮上している。つまりは、賠償金支払いで国民が痛みを負うことになりかねない。
東電単独では到底支払えない状況下で、社員はちゃっかり賞与をもらうのはいかがなものか。原発被害を受け、失業、事業や農業、漁業の廃業に追い込まれる人も多いだろう。被害者は収入の途を断たれ、加害者は減額とはいえ賞与をもらうなんて不条理ではないのか。むろん、加入員約3万3000人といわれる労働組合が存在する以上、会社の意向通りにはいかないのは理解できる。
しかし、事情が事情。会社の存続にかかわる問題だ。国や国民支援がなければ、東電は倒れる。賞与は全額カット、年収ではなく「月給2割削減」くらいのことをしなければ、国民理解は得られないのではなかろうか。ただし、原発事故現場にて命懸けで作業に当たっている社員には、優遇してあげるような人情もほしいものだ。
(蔵元英二)