「ロッキーズの監督が元大洋(現横浜ベイスターズ)のジム・トレーシーだから? 確かに彼も日本球界のことをよく知っている1人ですが、親日家ではありません」(米メディア陣の1人)
しかし、ロッキーズの球団フロントは「絶対に戦力になる!」と、即アプローチを掛けた。親日家ではない同監督を納得させた松井稼獲得の理由とは、本拠地『クアーズ・フィールド』の球場形態にあった。
日本で発売されているメジャーリーグ情報誌等によれば、同球場は「ヒッターズ・パラダイス」と紹介されている。右翼107メートル、左翼106メートル、中堅127メートル。左中間も119メートルとかなり広いが、標高1マイル(約1600メートル)の高地にあるために気圧が低く、「打球がかなり飛ぶ」という。「投手泣かせの球場」とも言えるが、松井稼はホームランバッターではない。前出の米メディア陣の1人は球団上層部から得た情報として、球場の広さについてこう補足する。
「球場が広いので、外野手はある程度後ろの方に守らなければなりません。つまり、内野手と外野手の間が広く空くので、松井稼のような1、2番バッタータイプの打者もヒットが出やすいんです。打球が内野手の頭を越えるだけでいいので」
ニューヨークメッツで攻守ともに喘いでいた松井稼がロッキーズで生き返り、好成績を残せたのは『球場の利点』というのが、米メディアの一致した見方だ。06年は打率3割4分5厘、同・出塁率3割9分2厘(32試合/シーズン途中移籍・メッツ時代の打率成績は除く)、07年は打率2割8分8厘、同・出塁率3割4分2厘。突出して高い数値ではないが、過去に在籍したメジャー3球団のなかではもっとも安定した成績を残した時期と言っていいだろう。
トレーシー監督は「日本人らしい日本人選手」と松井稼を評しているそうだ。09年、松井稼は19回の『送りバント』を試み、16回成功させている。『犠打の巧さ』を指してのコメントのようだが、ここ数年、松井稼は成功率こそ高いが、積極的に盗塁を仕掛けなくなった。現ロッキーズはレギュラー内野陣の守備範囲の広さと堅実さに定評があり、このなかに割って入るのは厳しい。但し、09年は前年と比べ、チーム盗塁総数が50個近くも減った。球団が松井稼に期待しているのは『盗塁』であり、「まだ走れる」ところをアピールすれば、アストロズを見返すことも出来るだろう。