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日陰芸人の隠れ迷作

 ピークは過ぎた芥川賞受賞の“又吉フィーバー”。売れない漫才師同士の人間愛を描いた受賞作『火花』は、発行部数144万部を突破して、出版界に活気をもたらせている。そんな陰にひっそり隠れて、ほんとうに売れていないお笑い芸人が、厳しい芸人のリアルな実情を描いた迷作も、地味に話題になっている。売れ筋なのは、天津・向清太朗だ。

 かつては、「あると思います」のエロ詩吟で一世風靡した、“天津・木村じゃないほう芸人”としてイジられる立場だったが、現在は芸人と漫画家の二足のわらじをはいている。3度の飯より、4コマ漫画とアニメが好きな向は、おたくカルチャーが流行する前から、コンビニで売られている4コマ漫画の30冊をほぼ制覇するほどの熱の入れよう。

 それが高じて、『まんがタウン』で連載を持つまでになり、昨年末には、自身が原作を手がけた『てんしんらん漫!』を出版した。さらに、お笑い界を描いた男性向け文庫『芸人ディスティネーション』は、8月に第3巻目が発売されるほどのシリーズもの。すでに、芸人収入より漫画家印税のほうが上回っている。

 そして、もう1冊。過酷すぎる芸人のバイト事情、底辺を行ったり来たりする収入を、実体験に基づいて記した書籍『プロレタリア芸人』も、かなりの秀作だ。

 こちらの作者は、本坊元児。すでにアラフォーで、現在は水口靖一郎との「ソラシド」で漫才をしている。芸歴14年で、拠点を大阪から東京に移したものの、売れる気配はゼロ。壮絶な肉体労働の現場で働く彼の、“現代版蟹工船”はディープでおぞましく、せつなくて笑える珠玉の1冊となっている。

 アニメオタクを満足させる向と、日陰芸人・本坊の魂の雄叫びが聞こえてきそうな自伝小説。“正統派”又吉に飽きた人におススメしたい、魂の力作だ。(伊藤由華)

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