5月には、「三島由紀夫賞」に入賞。残念ながら、3対2の決選投票で敗れたが、芸人界初の快挙は称賛するに値した。この落選が逆にPRにつながったのか、芥川賞発表を控えた今月には、50万部の発行部数に到達している。
今回の又吉旋風は、出版界に吹いた文字通りの“神風”だが、振り返れば2000年代、芸人が活字の世界を賑わせたことはあった。もっとも有名なのは、麒麟・田村裕だ。
自身が幼少期に経験した貧乏エピソードを綴った自伝『ホームレス中学生』(07年)は、累計売り上げ225万部超え。ダブルミリオンに達したことで、ドラマ、映画化もされて、関連書籍も多種類、出版された。田村が手にした印税は、およそ2億円。おかげで音信不通になっていた実父と再会、家を購入、結婚、一児のパパになるなど、運気は右肩上がり。ところが、活動拠点を地元の関西から移さなかったため、表舞台であまり目にしない。現在は、趣味のバスケットボールに心血を注ぐいっぽう、知人のバーでアルバイト。かつての億万長者の片鱗がまったくないのが、実情だ。
さらにさかのぼり、90年代の主役といえば、有吉弘行と森脇和成の猿岩石だ。ふたりは96年、『進め!電波少年』(日本テレビ系)で、香港からロンドンまでのユーラシア大陸およそ3万5千kmを190日かけてヒッチハイクで横断。その奮闘をまとめた書籍“猿岩石日記”シリーズは累計250万部を突破。凱旋ライブには西武球場(現:西武プリンスドーム)で3万人を集客し、歌手デビュー曲『白い雲のように』は113万枚をセールス。社会現象となったが、これをピークに人気は緩やかに下降していき、04年に解散した。
又吉の場合は、ピースとして漫才で“M-1グランプリ”、コントで“キングオブコント”の決勝舞台を踏んでいるだけに、笑いの面でも盤石。ここに、「芥川賞受賞芸人」の肩書きが加われば、鬼に金棒だが、神は又吉に微笑むか…? 結果に胸が高鳴る。(伊藤由華)