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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第333回 アベ・ショック

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提供:週刊実話

 2019年8月5日、アメリカのムニューシン財務長官は、中国を「為替操作国」に認定したと発表。アメリカが中国を為替操作国に認定するのは、1994年以来のことである。

 本連載で繰り返しているが、すでにアメリカと中国の「覇権戦争」は始まっている(※貿易戦争、ではない)。2019年8月1日に、アメリカのトランプ大統領は中国からの輸入品のほぼすべてに制裁関税を広げる措置を、2019年9月に発動すると表明した。

 中国の人民元は変動相場制ではない。対ドル為替レートを“調整”する管理フロート制を採用している。過去10年間の日本円、人民元、ユーロの対ドル為替レートを比べると、日本円・ユーロが上下50%の幅で変動しているのに対し、中国はわずか15%。中国が為替レートを“調整”していることは、もともと誰の目にも明らかだった。

 トランプ大統領の制裁関税の拡大表明を受け、人民元の対ドル為替レートは一気に下がった。約10年ぶりに1ドル=7元台に下落し、中国人民銀行(中国の中央銀行)は、「アメリカが中国製品に対して新たな関税を課す方針を示したことが影響した」と発表。露骨だ。要するに、アメリカの関税引き上げに合わせて、人民元の対ドル為替レートを切り下げたと宣言したのも同然なのである。

 為替操作による「対抗措置」を受け、アメリカは中国を即座に為替操作国に認定。中国側が対応を改めない場合、追加的な関税発動など、制裁が強化されることになる。

 米中覇権戦争の激化を受け、今後の日本経済はますます“外需”を当てにできなくなる。今こそ、内需主導の経済に転換しなければならないのだが、恐ろしいことに安倍政権はこの期に及んで2019年10月の消費税増税を強行し、民間赤字化目標ならぬ「プライマリーバランス黒字化目標」という緊縮財政に固執したままだ。

 消費税増税、米中覇権戦争激化、加えて2020年は「五輪不況」に陥ることが確実なのである。それにも関わらず、安倍政権は諸悪の根源である緊縮財政を改めようとしない。安倍総理は8月1日、浜田宏一内閣官房参与と会談し、「リーマン・ショック級のことは起こらないだろう」との見通しを示した。つまりは、10月には予定通り消費税を増税するという話だ。また、総理は現時点で増税前の駆け込み消費がほとんどないことを受け、「駆け込み需要がないということは、落ち込みも少ないのではないか」と語った。酷い認識もあったものである。

 厚生労働省が8月6日に発表した毎月勤労統計調査の速報値によると、6月の実質賃金は0.5%減少と、前年同月を6カ月連続で下回った。2019年上半期は、ついに一度も実質賃金が対前年比でプラス化することがなかったことになる。恐るべき事態が進行している。

 ご存知だろうが、厚生労働省は2018年1月に毎月勤労統計調査のサンプル企業を入れ替え、その後は「新たに入った給与が高い企業が含まれる新サンプル」と「入れ替え前のサンプル」を比較し、「実質賃金 対前年比2%超の上昇!」などと報じる統計詐欺に手を染めた。新たに入った企業群をサンプルから抜き、元々含まれていた企業同士を比較する「共通事業所」で見ると、’18年であっても実質賃金は低迷していた。

 それが2019年1月以降、明確な「マイナス基調」になってしまったのだ。その状況で、実質賃金を引き下げる消費税増税を強行しようとしているわけである。ちなみに、2014年上半期の実質賃金は対前年比マイナス2.8%、下半期はマイナス2.6%と、とんでもないマイナスに突っ込んだ。消費増税で物価が強制的に引き上げられ、給料は伸びない以上、当然なのだが、今回は「実質賃金が下落している状況で、実質賃金を確実に引き下げる消費税増税」が強行されることになるわけだ。

 実質賃金がすでに低迷している以上、駆け込み消費が盛り上がるはずもない。恐ろしいことに、我が国は国民の貧困化により「駆け込み消費が不可能」な状況でありながら、「駆け込み消費がないから、増税後の落ち込みは少ない」と、総理大臣が堂々と言ってのける国なのだ。

 現在の日本経済に押し寄せるリスクは、大きなものだけで、「(1)10月の消費税増税」、「(2)2020年五輪不況」、「(3)米中覇権戦争による外需縮小」の3つがあるが、これらの他にも、残業規制による所得縮小の悪影響が次第に表面化することになる。さらには、ブレグジットもある。ボリス・ジョンソン英首相誕生により、10月末にイギリスは欧州連合から「合意なき離脱」をすることになる。ブレグジットは、イギリスにとっては「いい話」だが、世界経済が一時的に混乱することは免れないだろう。

 もっとも、我が国の場合はリスク云々以前に「すでにして実質賃金が低迷し、国民が貧困化している」状況にあるのだ。

 総理は浜田参与との会談において、「リーマン・ショック級のことは起こらないだろう」と語った。増税前には起きないかも知れないが、増税後には間違いなく「アベ・ショック」が訪れることになる。

 米中覇権戦争が本格化したことを受け、我が国は早期に「内需拡大」に転じなければならない。財務省は2025年のPB黒字化目標達成に際し、輸出が’06年並みに拡大し続けることを前提にしているのだ。今回のアメリカによる対中為替操作国認定により、財務省の想定は完全に崩れた。

 外需が冷え込むことが明らかな状況で、それでも予定通りPB黒字化を目指すとなると、まさに、「国民赤字化目標」になってしまう。

 今からでも遅くない。安倍政権は消費税増税を(せめて)凍結するべきだ。さもなければ、リーマン・ショックならぬアベ・ショックが日本経済に襲いかかることになるのが確実なのである。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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