動物性タンパク質を主に海産物から摂り、ユーラシア大陸のような「畜産」がなかった。我々は畜産文明(=アフロ・ユーラシア文明)のように、家畜(あるいは人間)を去勢し、管理する術を知らない。
海産物は管理不可能である。自然(海や川)から「頂戴する」しかない。自然を「征服」するのではなく、「共存」する形で文明が発展したのが日本文明だ。
無論、現在は畜産業がそれなりに発展しているが、世界の人口一人当たりの家畜頭数では、日本はいまだにグリーンランド(!)と並び、世界最低水準である。歴史的に、食用家畜(肉・ミルクを摂取するための家畜)を保有しない農業を成立させたのは、日本と(スペイン侵略前の)アメリカ大陸のみだ。
家畜が存在しないため、天然痘や麻疹など「家畜発祥の疫病」は発生しない。とはいえ、大変「幸運」なことに、疫病溢れるユーラシアからそれほど離れておらず、病は人と共に海を越えてやってきた。結果、日本人は大陸の人々同様に、多くが家畜発祥の致命的な病原菌への抗体を持つことができた。
厳密には「抗体を持った人が生き残った」わけだが、日本同様に家畜が(ほぼ)いなかったアメリカ大陸、オーストラリアなどの先住民は、抗体を持つチャンスに恵まれなかった。1492年のコロンブスのアメリカ大陸到達以降、ヨーロッパ人が持ち込んだ「疫病」、具体的には天然痘や麻疹などが一気に蔓延し、先住民は「絶滅」に追い込まれてしまう。ユーラシアから持ち込まれる疫病に対し、抗体がない先住民は、全く抵抗することができなかったのだ。
日本列島がユーラシアからあまりにも隔絶し、日本人が疫病への抗体を一切持たなかった場合、1543年のポルトガル人の種子島漂着以降に、アメリカやオーストラリアの先住民同様に絶滅の憂き目に会い、文明が崩壊した可能性が濃厚なのである。
日本では古代から疫病が流行した。例えば、崇神天皇の時代、疫病流行で大勢の国民が死んでいる。日本書紀によれば、「民の死亡するもの、半ば以上におよぶほどであった」とのことだ。
古代からの疫病の流行がなければ、我が国はアメリカ大陸やオーストラリアの先住民のように、欧州人来航により全滅することになっただろう。
幸運なことに文明として生き残った我が国は、「祈る」天皇陛下を中心に、2000年を超す「伝統」の力に支えられ、世界最長の歴史を紡ぎ続けてきた。伝統とは「長期的な検証」を経たからこそ、現在にまで残っている。我々一個人の「思考」ごときが、伝統に勝ちうると思うのは傲慢というものだ。
日本の皇統の伝統を否定する者には、「一個人の思考は、2000年の検証に耐えうるほど正しいのか?」と、問いたい。何の話かといえば、いわゆる「女性宮家」「女系天皇」を主張する連中だ。我が国の皇室は伊弉諾尊、天照大神の神話に始まり、神武天皇以降は「少なくとも」2000年以上の長期に渡り男系の皇統を繋いできた、世界に例を見ない「貴重」な存在なのだ(「存在」としか言いようがない)。
なぜ、皇統は男系なのか。いくつか理由はあるだろう。
男系の皇統維持とは、女性排除ではない。皇統から排除されてきたのは、むしろ我々日本人の男性だ。日本の女性は皇族になる可能性があるが、男性にはない。
結果、日本は歴史的に「権威」と「権力」が分離され「権威を帯びた権力者」はついに出現しなかった。平安時代に権勢を誇った藤原道長といえども、自分の娘を皇室に嫁がせることはできたが、そこまで。天皇の祖父になることはできても、父親にはなれなかった。まして、自ら皇位を襲うことも不可能。豊臣秀吉も、戦国日本を統一するという偉業を成し遂げたにも関わらず、関白どまり。
歴史上、皇位を簒奪しようとした「日本人男性」は何人もいる。蘇我入鹿、道鏡、足利義満などになるが、なぜかことごとく失敗。
というわけで、権威を権力から切り離す「男系の皇統」が、日本国にとってベターな政体であることが、2000年を超す検証により証明されているわけだ。さらにいえば、秋篠宮皇嗣殿下、悠仁親王殿下という正当な皇統の継承者がおいでになるにも関わらず、現時点で、女性宮家だ、女系天皇(正しくは非・男系天皇)だのと言い出す時点で不遜なのである。
とはいえ、女性宮家やら非・男系天皇やらを主張する「伝統に逆らう傲慢な勢力」を黙らせるために、現時点で「旧宮家復活」を検討することは価値がある。自民党の「日本の尊厳と国益を護る会」(代表幹事・青山繁晴参院議員)が、男系の継承を堅持するために、旧宮家の男子の皇族復帰を可能とする皇室典範の改正か特例法の制定を柱とする提言を、安倍総理大臣に提出した。
我々日本国民は、皇統に対する攻撃(女性宮家、非・男系天皇等)について、「グローバリズムという疫病の侵略」と認識するべきだ。マスコミや「識者」は「外国では」「グローバルでは」と、謝った歴史教育で「抗体」を持たない日本国民を騙し、グローバリズムという疫病を蔓延させ、日本列島で生きていく上で必須のナショナリズムを破壊しようとする。彼らは、「ヨーロッパの王室では、男系女系の区別がなく、外国の王室から婿を迎えることもあるにも関わらず、日本は…」といったレトリックで日本国民を騙そうとしてくるだろうが、「そんな権威継承をしていたから、欧州人は殺し合いばかりやっていたのだろう」と、史実に基づき、反論しなければならない。
正しい「歴史的な知識」は、間違いなく我々が早急に身につけなければならない「抗体」の一つである。我々は歴史を学び、グローバリズムという疫病に対する「抗体」を保有しなければならないのだ。しかも、早急に。
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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。