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【不朽の名作】スキーの魅力語る上で欠かせないが負の部分も「私をスキーに連れてって」

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パッケージ画像です。

 1987年公開の『私をスキーに連れてって』は、歌手の広瀬香美やダンスユニットのZOOなどと並び、日本のスキーブームを語る上で欠かせない作品だ。映画としても、バブルの好景気まっただ中の世相をよく表していることもあり、結構評価の高い作品となっている。が、当時このブームで迷惑を被った人がいない訳ではない。ブームの時は、どこでもある現象だが、純粋にスキーを楽しんでいた従来のユーザーが多大な迷惑を被った。というわけで、当時のそんなスキーヤーたちの怨念も若干込めながら、本作を紹介したいと思う。

 まずこの作品、スキーでのかっこいい滑走シーンが最大の魅力だが、かなり上手い人が吹き替えで滑っているのを忘れてはならない。当時は映画の影響で、「トレイン走行」または「むかで」と呼ばれた、3〜5人がくっついて並走する走行法が流行ったが、あれは先頭に相当上手い人がいないと成立しない技だ。当時はこれを作品でいうところの「ミーハー」な人々が集まってやるので、かなり迷惑だった。

 ブーム当初は、映画のオシャレな雰囲気に習って、苗場スキー場や作品の舞台にもなった、志賀高原スキー場など、俗に「西武系スキー場」と言われる、当時コクドが運営していたスキー場でよくこの光景が見られた。しかし、リフトの混雑などの影響で、東京から比較的近いということから、それまで穴場だった新潟・群馬・長野の各県の他のスキー場にまでこの現象が波及することとなり、各スキー場ではトレイン走行禁止などのルールを作った。とはいっても、今では恥ずかしくてやる人はいないだろうが。

 また、この映画はスキーが格好良く感じる部分しか見せていないことに注意しなければならない。劇中に出てくる三上博史演じる、矢野文男のように楽々と滑るには、それこそ長い時間が必要になる。まず最初はリフトなんて乗ってはいけない。斜面の登る為に「カニ歩き」と呼ばれる、斜面に対して体を横向きにし、スキー板のエッジを立てながら歩く基本を学ばないと、色々大変なことになる。当時どころが、映画公開から数年経った後でも、この基本が不十分なスキーヤーが多く、若干坂のあるリフト乗り場で迷惑をかける人が多かった。

 このカニ歩きをクリアしても、最初に滑る方法は板をハの字にする、通称「ボーゲン」と呼ばれるプフルークボーゲンだ。これがまた、劇中の颯爽とした滑り方とは違い、鈍重で格好がつかない。当時はロシニョールやK2などの有名メーカーの最新モデルスキー板を買って必死にボーゲンをする姿が見られた。これらの面倒な練習を何度もして、しばらく慣れてからようやく劇中の様にパラレルターンで滑れるようになる。スキーはとにかく面倒なのだ。この数年後、ヘタクソでも、とりあえず様にはなるスノーボードが登場し、ビギナーユーザーはボードにことごとく切り替えたが、そうなるのも仕方ないとは思う。今度はゲレンデの座り込みなので迷惑行為をする事にはなるのだが…。

 さらにスキーに慣れて調子に乗って、上級者コースに経験者を伴わず行くとこれまた大変なことになる。上級者コースの最大斜度は30°〜35°、もっと急なコースの場合40°近いものもある。映画ではそれこそ爽快に滑っていたが、ああいうコースはゲレンデの上から見下ろすともはや崖にしか見えない。しかも必ずといっていいほど雪がコブになっている。コース取りを間違えると、そのコブに腰などを強打することになる、これはかなり痛い。自信のない人は迂回路があるので、そこを通って行くのだが、ごくたまに、無謀にも挑戦してスキー板を斜面の終わりまで吹き飛ばす人や、骨折する人などもいた。それこそ、三上みたいな経験者にコース取りを教わらないと、ちょっとスキーに自信のある程度では滑ることもままならない。

 しかし、この映画では、スキーの滑走での行動以上に問題な点がある。それは劇中での車のシーンだ。矢野の車が凍った路面に対応出来ず、チェーンを装着するシーンがあるのだが、そこで矢野の女友達が、「所詮四駆の敵じゃないよね」と言い放つ。これには、「雪山なめんな! 死ぬぞ!!」と大きな声でツッコミを入れたくなる。矢野の女友達の愛車は劇中では4WDタイプのスポーツカーという設定になっている。多分常時四輪駆動の「フルタイム式」4WDだと思う。確かに山道には強いが、スタッドレスタイヤを履いているからとは言え、それは滑りにくいだけだ。雪山の悪路を全速力で飛ばすには、それこそWRCレーサー並みの技量を必要とする。しかしこの映画ではかなりの速度で雪山を飛ばしており、当時これを真似して、スリップしてガードレールにぶつけたり、林に突っ込んだ車も多かったのではないだろうかと心配になってしまう。

 『私をスキーに連れてって』は、たしかにスキーブームを巻き起こした。映画としても、スキーの演出や、シーンごとに効果的に入れられた松任谷由実の歌などは、この作品を魅力あるものにしている。しかし、華やかな部分ばかり見せすぎて、スキーが結構大変なスポーツであるという、負の部分を殆ど見せていない。まあ、娯楽映画としてはそれで正しいのだが、正しくスキーを理解したスキーヤーが増え、従来のスキーヤーも含めてみんな幸せとならなかったのが、若干悔やまれる。

 散々文句をいってきたが、この作品はバブルがとっくに崩壊した後に生まれた人に、ぜひとも見てもらいたい。当時のバブリーなノリについて行けない部分もあるかもしれないが、スキーを含めた当時の熱狂というものを感じられるはずだ。そしてこの作品の話を親に話すと意外とその世代で、スキーを通じて親子関係を深められかもしれない。そしてスキー場に足を運べば、低迷続くスキー業界の活性化にも繋がるので。

(斎藤雅道=毎週金曜日に掲載)

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