ところが、日本陸連は川内の五輪出場を由とはしていないというのだ。陸連の河野匡強化副委員長は「日本人特有の粘りを見せ、チャンスで自分から仕掛けて(日本人)1位になった」と一定の評価を与えながらも、並み居る実業団選手を破ったにもかかわらず、「8分台はほしかった。強いか弱いか正直分からない。五輪を考えると内容は厳しい」と激辛コメント。
通常、代表選考会で日本人1位となった場合、その後の選考レースには出場しないことが慣例。しかし、記録に納得がいかない川内は5日朝の一夜明け会見で、「東京マラソン(来年2月26日)で7分台(自己記録は2時間8分37秒)を出して、五輪に行きたい」と、貪欲により上を目指す意向を明言した。川内の挑戦には危険もはらんでいる。東京五輪で今回より悪いタイムに終わった場合、その評価が落ちてしまう恐れもあるのだ。
川内の東京マラソンへの異例なチャレンジには陸連も困惑。そこには、陸連の思惑が見え隠れしているという。ベテランのスポーツジャーナリストのA氏は「走ることが仕事の実業団の選手を差し置いて、市民ランナーの川内が五輪代表になってしまったら、面目丸潰れです。陸連のホンネは今後の選考会で、実業団の選手が今回の川内の記録を上回ってくれることでしょう。従って、川内に東京マラソンに出られて、好タイムを出されては陸連も困るのではないのでしょうか」と語る。
坂口泰・男子マラソン部長は「恵まれた環境で練習をやっていて川内に負けた。選手や指導者は何かを感じないといけない」と話したが、これは実業団選手に対する猛ゲキ。裏を返せば、「市民ランナーの川内に負けるな!」ということ。
川内は埼玉・春日部高定時制職員でフルタイム勤務。練習量は実業団選手の半分程度といわれている。その川内が五輪代表に選ばれれば、まさに痛快だ。
マラソン五輪代表選考といえば、とかく物議を醸してきた。その空気を悟った川内はリスクを覚悟の上で、東京マラソンで文句ないタイムを出して、五輪代表を決めたいのであろう。
(落合一郎)