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【ナツカシ映画館】 追悼・ブリタニー・マーフィ、日本の“下流世代出現”を予感させた米国サクセス・ストーリー『8 Mile』

 昨年12月に32才の若さで急死した女優・ブリタニー・マーフィ。少女と共演したかわいらしい映画「アップタウン・ガールズ」や、大人の魅力を見せた「シン・シティ」、日本で撮影された「ラーメンガール」など、女優として様々ないい作品を遺した彼女だが、彼女の代表作といえば何といってもラッパーのエミネムが、自らの生い立ちを下敷きにした半自伝的映画『8 Mile』であろう。この映画について語る。

 2002年に公開されたアメリカ映画『8 Mile』。当時30才ぐらいだったエミネムが、20代前半の頃の1995年のミシガン州デトロイトが舞台。「8 Mile」とは富裕層と貧困層、そして白人と黒人とを分けるラインになっている境界線の事。男にだらしのない母(キム・ベイシンガー)と幼い妹とトレーラーで暮らす白人青年・通称ラビット(エミネム)は、ラッパーで成功し、貧しい生活から脱する事を夢見ている。工場で働きながら日々思った詩をラップに綴り、シェルターと呼ばれるライブハウスでMCバトルに励むのだが…。

 かつて隆盛を極めたアメリカの自動車産業が没落し、黒人のみならず白人でも貧困層が増え始めたデトロイト。ロックスター、マドンナもこの辺の出身で、父はエンジニア。「音楽で成功」は多くの貧しい若者の夢なのであろう。公開当時この映画をジョン・トラボルタ主演の「サタデー・ナイト・フィーバー」似ていると言った批評家がいたが、70年代の若者像を描いた「サタデー〜」と90年代の『8 Mile』はまったく別なテーマの作品で、どちらかと言うと80年代に公開された、ロックスタープリンスの自伝映画「パープル・レイン」に近い。しかしながら、80年代の黒人層の若者の成功を描いた「パープル・レイン」と、お先真っ暗の90年代を描いた『8 Mile』では、若者の切迫感が違う。紫の衣装でステキなバイクにまたがっていたプリンスに比べ、ボロボロのシャツを着てゴミ袋に私物を入れて歩くエミネムはあまりにも殺伐としている。
 そして、ラビットと一時深い関係になるアレックス。彼女を演じたブリタニー・マーフィの存在が、『8 Mile』の大きな花だ。アレックスはモデルを夢見る少女で、二人は夢を語り合い、お互い好きになるが、結局は関係が壊れる。しかし、なんとか街から出たいアレックスの立場はラビットと一緒で、彼は彼女を責められない。恋人というよりは、群像劇の一片のような形で描かれる。ブリタニーはいつもより陰を見せ、見事アレックスを演じきった。この映画で意気投合したエミネムとブリタニーはその後しばらく付き合っていたという。

 公開当時、今ほど不況の波が訪れていなかった日本でこの映画を見た記者は、アメリカもそんなものかと思った程度で、大して“貧困”に脅威を感じなかった。そして2010年現在、「下流社会」という言葉が定着し、この映画の登場人物のように貧困から抜け出せない若者が日本中に溢れ出し、そしてその多くが、ラビットやアレックスのような夢さえも持てない。貧困が決して他人事では無くなってしまった今、この映画のいわんとする事は何か。8年経った今、更に評価したい作品である。(コアラみどり)

写真 (2003年頃、記者がグアムで買ってきたお宝ビデオ。)

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