驚きの連続だった。ファンだけではない。サンアディユの強さに最もド肝を抜かれたのは、厩舎のスタッフたちだった。
「馬が硬くてね。芝をこなすのはどうやっても無理だと思っていた」と浜田助手は振り返った。しかし、サンアディユはこの夏、そんな不安を見事に裏切ってみせた。
13番人気のアイビスSDは直線1000mの競馬では致命的な出遅れをものともせず、鮮やかな追い込みで重賞初制覇を達成した。それまではオープンのダート戦で頭打ちのレース続き。目先を変える意味での芝挑戦だったわけだが、アイビスSDの結果次第では引退の二文字もちらついていた。そんな苦境を自身の潜在能力で跳ね返した。
さらに、もっと陣営を驚かせたのは前走のセントウルSだ。引っ掛かり気味に先行すると、そのまま5馬身のぶっちぎり。芝1200m1分7秒1の優秀な時計で11番人気の低評価を覆し、サマースプリント女王の座まで手にしてしまった。
「驚いた。折り合いを欠きながら直線で突き放したんだからね。もともとコーナーリングに課題のあった馬だけに、あの走りには、ホント、びっくりした」
馬は、突然変わる。芝にコーナーリングとそれまでの苦手種目を次々に克服してしまった。伏兵の夏から一転、秋は主役を務める。
中間も順調だ。セントウルSは18kgのプラス体重。充実の証しとはいえ、いくらか太めが残っていたのも事実だ。それだけに厳しく映る中2週のローテーションはむしろ歓迎だろう。「余裕のあった体をひと叩きして、いい体調で本番を迎えられそう」と浜田助手もうなずいた。
サイレントウィットネスにテイクオーバーターゲットとここ2年は超強力外国馬に勝利をもぎ取られてきた。しかし、今年はインフルエンザ騒動などの影響で、海外からの参戦はない。サンアディユにとっては一気に頂点を目指すチャンスだ。
「もまれず思い切った競馬ができれば…」迷いはない。けれんみのない積極策で、中山の急坂を駆け抜ける。