5月11日(月)、東芝株は取引開始直後から売り注文が殺到し、ストップ安となる前週末終値比80円安(16.56%安)の403円に張り付いたまま取引を終了した。翌12日は終値こそ前日比0.74%安の400円だったが、一時は28%安の375円まで売り込まれ、年初来安値を更新した。
発端は前週末の5月8日、連結営業利益3300億円(前期比13.5%増)、純利益1200億円(同2.4倍)などと見込んでいた今年3月期の業績予想を取り消し、決算発表を6月以降に延期する上、期末配当を見送ると発表したことだ。
これだけでも尋常ではないが、市場の不信感を煽ったのはその理由である。同社は4月初め、過去に請け負ったインフラ工事の一部で「不適切な会計処理を行った疑いがある」として室町正志会長を委員長とする特別調査委員会を設置し、1カ月程度かけて調査する旨明らかにした。ところが今度は決算発表を大幅に延期した上、「法律や会計など社外の専門家のみで構成する第三者委員会をあらためて設置し、調査を継続する」と発表したのだ。
「東証は上場会社に対し、決算期末から45日以内での情報開示を要請している。東芝は3月決算会社だから5月15日が期限になる。それを大幅に延期すること自体、タブーに踏み込む強い意思表示と理解すべきでしょう。社内中心の特別調査委員会では調査に限界があるため、外部の手を借りて一気にウミを出す作戦に他なりません」(経済記者)
東芝が調査対象にしているのは『電力システム社』『社会インフラシステム社』『コミュニティ・ソリューション社』の社内カンパニー3社。言い換えれば、この中に東芝の命運を左右しかねない“爆弾”が潜んでいる図式だ。
当然、不気味さは増す。その鍵を握るのは奥歯にモノが挟まったような「不適切な会計処理」、即ち“粉飾疑惑”の中身である。東芝ウオッチャーが解説する。
「4月に調査委員会を設置した際、東芝には長期間の工事について完成時に一括して収益を計上する会計処理だけでなく、工事の進捗状況に合わせて計上する工事進行基準で処理する制度があり、昨年3月期は工事進行基準で掛かった費用を少なく見積もったことから収益が実際よりも多く計上された可能性があると明かした。実態はもっと複雑らしく、過去数年にさかのぼって大幅修正しないとも限らない。その裏に経営トップの秘めた意図が絡んでいたら大型経済事件に発展しかねない。市場が疑心暗鬼を募らせてパニック売りに走るのは、そのニオいを敏感に嗅ぎとったからです」
東芝には、世間の耳目を集めた衝撃的な“事件”がある。2013年2月、同社は佐々木則夫社長が6月総会を機に副会長に退き、後任に田中久雄副社長が就く人事を発表した。退任が濃厚とみられた西田厚聡会長は留任したものの、3人そろって臨んだ記者会見の席で西田会長-佐々木社長コンビの確執が一気に表面化したのである。西田会長が田中新社長への期待を込めて「東芝をもう一度、成長軌道に乗せてほしい」とエールを送った途端、佐々木社長が「業績を回復し、成長軌道に乗せたことで私の役割は果たした」とかみついたのだ。前出・ウオッチャーが苦笑する。
「本来ならば現社長は会長になり、会長は相談役に退く。ところが佐々木さんの会長就任を阻止したい西田さんは彼を70年ぶりで復活する“中二階ポスト”の副会長に据え、社長候補の下馬評にも上がらなかった田中さんの後見役を自負した。揚げ句に新社長の発表会見で『佐々木社長の下で東芝の成長が止まった』とバッサリ斬り捨てた。これじゃあ佐々木さんがムッとなったのも無理はありませんでした」
これには後日談がある。前年6月の株主総会で副社長を退き、常勤顧問に退いた室町正志氏が、わずか1年で取締役に復帰、翌'14年6月の株主総会では相談役に退いた西田氏の後任会長に就任した。社長経験がなく、一度は役員から退いた人物が会長に抜擢されたのは、東芝の長い歴史の中で初めてのことだ。
実は室町会長、今でこそ東芝が外部で構成する第三者委員会に調査を委ねたとはいえ、4月に発足した特別調査委員会の委員長を務めた経歴を持つ。今回の“室町外し”は何を意味するのか。市場関係者が膝を乗り出す。
「彼は西田さんの腹心中の腹心。ということは西田社長時代にさかのぼって粉飾疑惑が解き明かされる可能性がある。社長推挙の恩を仇で…。案外、田中社長は大物かもしれませんよ」
東芝の伝統ともいうべき“お家騒動”の血がまたゾロ騒ぎそうだ。