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フォルクスワーゲンとの“離婚”もつかの間 スズキに忍び寄るM&Aの影

 スズキがついに独フォルクスワーゲン(VW)との“協議離婚”にこぎ着けた。両社は2009年12月に資本・業務提携したが、VWが決算書でスズキを「財務・経営面で重大な影響を及ぼし得る会社」、すなわち事実上の“持分子会社”と記載したことにスズキが猛反発、提携解消を求めて'11年11月に国際仲裁裁判所へ仲裁を申し立てた。裁判は長期化したが、8月30日に両社の提携の解消を認める判断が下った。スズキの実質勝訴である。
 その発表会見で鈴木修会長(85)は「喉の小骨が取れてスッキリした」と満面に笑みを浮かべ、もし敗訴すれば同社株の19.9%を保有するVWの軍門に下りかねない事態もあったことを踏まえ、外資との提携はこりごりとばかり「今後は独自路線を貫く」と強調した。

 しかし、市場筋はハイブリッド(HV)や電気自動車(EV)技術でトヨタ、日産などに見劣るスズキが単独で生き残るのは厳しいとの見立てで一致する。そもそもスズキがVWと提携したのは「VWから環境技術の供与を期待した」(関係者)からに他ならない。
 それまでのスズキは米GMと資本・業務提携し、最先端の環境技術を導入することで販売面の強化やインド市場の開拓にまい進してきた。ところが経営危機に陥ったGMが'08年に提携を解消、17年間に及ぶ蜜月関係に終止符が打たれた。孤立を恐れたスズキが急きょVWに擦り寄ったのが翌'09年のことだ。
 「鈴木会長は解消会見で『技術者が努力した結果、VWとの提携で期待したほとんどのことができた』と胸を張ったのですが、8月末に発売した小型ワゴン車『ソリオ』にしても簡易なHV車で、技術的にはまだトヨタ、ホンダに及ばない。新興国でも燃費規制が強まっており、新たなパートナーが見つからなければ野垂れ死にする。口では勇ましく独自路線を唱える鈴木会長だって、いずれ立ち行かなくなることを承知しています」(業界関係者)
 その場合、野心家が甘い言葉を並べて急接近すれば“第2のVW”騒動に発展しかねない。そんな事態を回避すべく、逆に独自路線を死守すればどうなるかも自ずと明らかだ。

 スズキのリスクは、これだけにとどまらない。同社は6月30日、社長兼任だった鈴木修氏が会長専任となり、長男の俊宏副社長(56)が社長に就任した。親子間の相続は既定路線だったとはいえ、ワンマンで知られる父親の修会長は最高経営責任者(CEO)を兼務するため、経営体制は基本的には変わらない。
 「まだ若葉マーク付きの御曹司は控えめな性格とあって、確かに敵は少ない。しかし、強烈なカリスマ性を発揮する父親とは対照的なだけに、経営トップとしてどこまでリーダーシップを発揮できるかとなると疑問符が付く。修会長が目配りを怠らないとはいえ、85歳の年齢からいって“後見人”として目を光らせることができるのは、せいぜい1、2年でしょう。逆に言うと、それまでにオヤジ依存から脱却できなければ、スズキの経営はダッチロール化する。密かに食指を動かしているライバル企業が、そのチャンスを見逃すはずがありません」(担当記者)

 もう一つ、悩ましいのが株の問題だ。国際仲裁裁判所の決定を受け、スズキはVWが保有する19.9%の自社株を買い戻す。時価換算で約4600億円。同社の手元資金は約1兆円あり、資金的には余裕があるとはいえ、問題は買い戻した自社株の扱いだ。全てを自己保有株として持ち続ける方法もあるが、「株価アップを期待する株主が反発するのは必至。一部を償却するにしても、新たな提携先に割り当てた方が効果的」と大手証券マンは“次の展開”に期待を膨らませる。
 背景にあるのが、物言う株主として知られる米投資ファンド、サード・ポイントの存在だ。同ファンドを率いるダニエル・ローブCEOは8月初め、投資家に向けた書簡で同社の株主になった旨を明かしている。まだ関東財務局に株式の大量保有報告書を提出していないことから保有比率は5%未満(一説では1%未満)と憶測されるが、ソニーやファナックに揺さぶりをかけ、本国でも有数の“強面”として恐れられている同ファンドがスズキに狙いを定めたこと自体「ポストVWをにらんでのこと」(情報筋)と見られている。
 「ローブCEOの嗅覚はハンパじゃない。スズキが業界再編の台風の目になるとの確信があったから買い出動した。御老体の引退が秒読みで御曹司が若葉マークを引きずっている。彼の血が騒ぐわけです」(前出・大手証券マン)

 水面下ではフィアット、トヨタ、GMなどが次の提携相手として取り沙汰されている。しかし、業界再編には関係者の欲と打算が複雑に絡むだけに、意外な急展開もありそうだ。

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