『龍馬伝』は、弥太郎の視点で龍馬を描く物語である。前半は弥太郎の存在感が圧倒しており、主役を食っていると評されるほどであった。地下浪人として農民からも見下される弥太郎と、上士・郷士の厳しい差別はあるものの、経済的に豊かな龍馬では背負っているものが異なる。弥太郎のインパクトが大きくなることは当然であった。
しかし、その後の弥太郎は知識・経験・世界観で龍馬に大きく差をつけられた。弥太郎は憎まれ口を叩きながらもツンデレ属性の善人で、そこを龍馬に見抜かれて利用される存在に成り下がった。弥太郎の不運は、龍馬のパートナーとして後藤象二郎(青木崇高)を大人物として描こうとしている点にもある。象二郎を大人物として描くために、ドラマでは周囲にいる弥太郎が霞んでしまう。
『龍馬伝』は、奸臣として描かれがちな吉田東洋(田中泯)を先見性のある人物として描いたことが斬新であった。東洋は、月形半平太のモデルとして美化されがちな武市半平太が暗殺を指示した人物であり、半平太を美化するためには、東洋を悪人にする必要があった。これに対して、『龍馬伝』は半平太(大森南朋)の腹黒さを直視する。龍馬視点では、半平太はよき友人となるという限界がある。これに対し、弥太郎視点とすることで対立する立場の東洋も公正に評価する。
ただし、東洋を大人物と描く代償として、東洋存命中は東洋の傍にいた象二郎が小物に描かれていた。これで大政奉還の建白などができるのか一抹の不安があったが、第4部の象二郎はモミアゲも濃くなり、ビジュアル面でも大きく化けた。その象二郎にいいように使われる弥太郎であったが、今回ようやく自分の道を見つけ出す。それは龍馬の理想と対立するものであった。
史実の弥太郎は台湾出兵や西南戦争など、戦争の利益で三菱財閥の基礎を築いた。その意味で今回の弥太郎の結論にはリアリティがある。登場人物としての弥太郎にも再注目したい。
(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者 林田力)