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高橋四丁目の居酒屋万歩計「丸富」(うなぎ、品川区南品川)

 京浜急行、青物横丁駅から徒歩350歩

 うなぎ屋「丸富」の暖簾(のれん)をくぐったのは、閉店まであと15分を残すのみ、というころあいだった。厨房では洗い物がすでに始まっており、同時にそれらの収納にかかってもいた。閉店時間は7時半。ついでに申し上げれば、水曜と土曜は夜の営業はしない。日曜と祝日は休み。そうして昼どきは、酒を出さない。つまり居酒屋として利用できるのは、これらを1週間の営業時間から引き算した数時間ということになる。
 1日5本限定のレバ焼きには間に合わなかったが、ひれ焼きと串焼きが残っていた。コの字型のカウンター席の定員は12人。たいそう恰幅(かっぷく)がいい若者が、店の最高価格品2400円の「大盛Wうな丼」(大盛りご飯に、うなぎが2枚)を、箸(はし)も折れよとばかりにかきこんでいた。空気と一緒に飯と鰻(うなぎ)を吸い込むその尋常ではない速さは、自分の高校時代の凶暴な食欲が思い出され、少しひるんでビールのグラスを置いてしまった。

 後日、改めて1300円のうな丼普及版をいただいたのだが、むっちりした肉厚の鰻がさらりとしたタレをまとって白いごはんの上に乗せられて供されると、先日の若者のように思わず知らずかきこんでしまった。この暴挙で、ひつまぶし状態になったうな丼で厚く胃壁をガードすることになってしまい、酒が進まず往生した。この日、飲み屋でいきなり丼物になったのには訳がある。今回は串焼き、きも焼き、ひれ焼きが払底して、丼物と酒しか供せないのだという。小体な店なので、なかなかうまくいかない。「出来ますものは丼のみ」と張り紙が出され、客が途切れたところで暖簾が引き上げられてしまった。このように徹底した売り切り御免の流儀を通しているから、満遍なく鰻を堪能しようとお望みなら、夜の部が開店する日の4時半ちょうどに入場するしかない、という結論になる。
 両日とも、「丸富」を出れば池上通は薄暮の7時半。夕餉(ゆうげ)の買い物の主婦はいまだ撤収しておらず、明るいうちに帰路につけた会社員は望外の喜びにさんざめき、下校する学生たちも三々五々あるいは十字路で別れを惜しんでいる。そんな光景が、青物横丁駅まで雑踏をなす。この通りは別名「ジュネーブ平和通」。青物横丁駅前には、1991年9月8日に品川区とスイスのジュネーブ市が友好都市提携した旨の記念の陶板が掲げられている。店から青物横丁駅にたどりつくには旧東海道を跨がねばならない。東海道五十三次の品川宿のその道幅は、おどろくなかれ、わたしの歩幅でたった10歩。博物館で見た実物大の大名駕籠を思い浮かべてみたら道いっぱいをふさいでしまった。律儀に、道幅の狭い旧東海道を原寸のまま保存して、現在は一方通行の一車線として使用されている。

予算2200円。
東京都品川区南品川3-6-2

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