撮影者は筆者・山口敏太郎の著作の熱心な読者であるOLのMさんである。彼女は植物を撮影するのが好きな女性で、手持ちの携帯電話で新宿の某所で、何種類かの写真を撮影した。その中の一枚がこれである。なんの変哲もないワンショットだが、後方に広がる窓を見て欲しい。その窓に、奇妙な影が映りこんでいる。ちょんまげのような髪型に、和服っぽい服、なで肩。どうみても、“小さなサムライ”の姿が映りこんでいるのだ。この写真が、山口敏太郎事務所に持ち込まれたとき、大きな衝撃が走った。心霊写真といえども、こんな奇妙な写真があるとは…。山口敏太郎以下、スタッフ一同驚きを隠せなかったのだ。
当事務所は、心霊写真においてはインチキ写真を徹底的にできるだけ排除し、偶然に写りこんだ不思議な画像を、エンタメとして素直に愉しむスタイルをとっている。だが、この写真はどうだろうか。どうみても“ちょんまげの人物”が写りこんでいるではないか。もちろん、現代でもちょんまげヘアーの個性的な御仁はいるのだが、この窓の外は空中であり人が立てる場所ではない。“小さなサムライ”が、窓の外側の虚空に浮かんでいるとしか思えない。しかし、虚空に浮かぶとなるとこの“小さなサムライ”は生身の人間でないことは明らかである。もはや、理解不能の不思議写真ではないか。
また、さらに観察して判明したことだが、この“小さなサムライ”は、背中に筒のようなものを背負っている。これはサムライが弓矢を入れる空穂(うつぼ)ではないだろうか。これが重要なポイントである。もし、悪戯で写メール画像を合成するなどした場合、普通は刀をさしたサムライを演出するのがセオリーである。だが、“空穂(うつぼ)を背中に背負ったサムライ”というマニアックな設定を誰が思いつくであろうか。これはやはり、“空穂(うつぼ)を背中に背負ったサムライ”のビジョンが時空を超えて飛んできた「タイムスリップ現象」か。或いは、江戸時代以前に亡くなったサムライの魂魄が写エールに、写りこんだとしか思えないのだ。新宿と言えば、幕末の頃、江戸に攻め込んできた官軍が、尾張徳川家の上屋敷に砲陣を築いたことで知られている。
因みに、“小さなサムライ”といえば、実話怪談集「新耳袋」など数々の媒体で語られている渡辺徹と榊原郁恵夫妻の不思議な体験が有名である。二人はとある旅館で宿泊中、身長が15cmくらいの“小さなサムライ”がちょこちょこと歩くのを目前した。驚きと恐怖で愕然とする夫妻の前を横切り、その“小さなサムライ”は、イチゴを三口食べたという衝撃的な行動をとっているのだ。他にも小泉八雲の著作「怪談」に見られる「ちんちん小袴」という話も“小さなサムライ”が出てくることで有名である。毎晩毎晩、“小さなサムライたち”が出現しては踊り狂う。この魔物たちの正体はたたみの縁に差し込まれた楊枝であったという。今回出現した“小さなサムライ”は、いったい何を我々に訴えたいのであろうか。