席につくなり、腹の底からフツフツと湧き出た怒りを小声で安田さんにぶつけた。
「エリカちゃん、相変わらずキレキャラだね〜…あっ、何飲む?」
「安田さんと一緒のやつ。」
嫌な客についたあと、安田さんの席に戻ってくると安心する。
「いや、だってさ!自分は金を持ってるだとか、そんな話ばっかりなんだよ?そのくせ超ドケチだから、おもわず年収聞いちゃったよ!そしたらたったのコレだけなんだよ?」
右手で年収と同じ数だけ指をたてて、マシンガンのように喋る私を見て、安田さんはにっこりと微笑んだ。
「でもさ、それだけ無理して自慢するのは、エリカちゃんに素敵な男性って思われたいからじゃないの?」
「そんなわけないじゃん、自慢できれば女の子なんて誰でもいいんだよ!」
「まあね…、でもそうすることでしか自分をアピールできない男性もいるからさ。」
「いや、それくらいわかってるけど…」
時々、自分はこの商売に向いてないんじゃないのか?って思う。
気は短すぎるし、お客さんとも女の子ともすぐ揉めるし、思ってることはすぐ顔に出ちゃう。
でも、安田さんは、それが私らしさであり、私の良いところだって言ってくれる。
普通のホステスらしくないところが、エリカちゃんの魅力でしょって自信を持たせてくれる。
「はあ、安田さんみたいなお客さんが毎日来てくれたらいいのに〜…」
「おっ、今日初めてホステスっぽいこと喋ったじゃん(笑)。でも、残念ながら安月給の一般サラリーマンには、そんな甲斐性がなくてね。」
ごめんね、と小さく呟く安田さんを見て何だか申し訳なくなった。
営業っぽく聞こえちゃったのかなとか、気分悪くさせたかもと、普段はまったく思わない心配なんかしてしまった。
「でも、どうしても指名取らないといけないときとか、言ってくれればちゃんと来るからさ、俺。」
「…じゃあさ、私が安田さんに会いたくなった夜には必ず会ってくれる?」
「会うだけ?」
「うん、指名とかいらない。てか、店内でも店外でもいいから。」
「なんだ、それなら毎晩でも大歓迎だよ」
確かに、高学歴で高収入のお客さんなんて、店にいればいくらでも出会える。
でも、安田さんみたいに着飾らずに何でも素直に話してくれるお客さんといると、こんな気が短くてい じっぱりの私でも、自然と素直になれる気がする。
取材・構成/LISA
アパレル企業での販売・営業、ホステス、パーティーレセプタントを経て、会話術のノウハウをいちから学ぶ。その後、これまでの経験を活かすため、フリーランスへ転身。ファッションや恋愛心理に関する連載コラムをはじめ、エッセイや小説、メディア取材など幅広い分野で活動中。
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