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私はこうしてお客様に落とされた 〜美輝(みき)・キャバ嬢(23歳)〜

 東北の外れにある町で生まれ育った私は、高校を卒業してすぐ、憧れだったキャバ嬢への道を進んだ。

 県内唯一の繁華街にある小さな田舎のキャバクラで、No.1をキープし続けるのは難しいことではなかった。

 …と言うよりも、ここでNo.1になることなんて、夢への一歩でしか過ぎない。キャバ嬢だけじゃなく、ホステスやホストとか、みんな1度は考えたことがあると思うんだ。もっと派手な街に出て、もっと競争率が高い店で実力を試したいって。

 だから、私も23歳の誕生日をキッカケに、生まれ育った町を出て、日本三大歓楽街のひとつ、札幌・ススキノでもっと上を目指そうと誓ったの。

 「自分、それどこの方言なんだよ?」
 「道民ではないな〜。田舎者か?」

 まともに呂律すら回ってない客と、店の女の子たちが手を叩きながら笑う。この仕事で挫折も苦労も味わったことがなかった私は、こぼれてくる涙をこぼさないよう瞳に溜めながら、必死に笑ってみせた。ああ〜、やっぱり私ってなまってますよね。なんて、震えた声で話しながら。

 調子にのってたんだとか、自意識過剰だったとか、自分に言い聞かせながら、トイレにこもって涙でボロボロになったマスカラを丁寧に塗り直した。No.1という肩書きが、私に自信を持たせていたけど、所詮は田舎のキャバクラ。今いる場所とは、全然舞台が違う。

 出てきて数か月しかたってないけど、あの町に戻ろうかな…?
 それか、これを機にOLにでもなって、いつか結婚して、平凡な人生を歩もうかな。

 そんなことを考えながら、トイレの扉を開くと、さっきまで付いてた客の中のひとりが立っていた。

 「その方言、可愛いよね。どこの出身か当てようか?」
 「えっ…」
 「気にすることないよ。アイツらだって、生まれは北海道の端っことかなんだから」

 あっ、泣いてたの気付いてくれてたんだ…。それがわかった瞬間、今まで必死に我慢してきて、メイクも直したばかりなのに、気付いたらワンワン泣き始めちゃったよ。女の子のひとりが、慌ててロッカールームまで連れて行ってくれたけど、しばらくの間、涙がとまらなくなっちゃったんだよね。

 “都会で触れる優しさに救われた”とか、よく話には聞いていたけど本当だったみたい。

 ちょっとした優しさがキッカケで、恋に落ちちゃうこともあるんだって、このとき初めて知ったんだ。

【取材・構成/LISA】
 アパレル企業での販売・営業、ホステス、パーティーレセプタントを経て、会話術のノウハウをいちから学ぶ。その後、これまでの経験を活かすため、フリーランスへ転身。ファッションや恋愛心理に関する連載コラムをはじめ、エッセイや小説、メディア取材など幅広い分野で活動中。
http://ameblo.jp/lisa-ism9281/
https://twitter.com/#!/LISA_92819

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