ボーイの男の子に呼ばれて4番ボックスに向かおうとしていた私に、ミカがこっそり耳打ちしてきたの。でも、お笑い芸人やスポーツ選手が来てもふーんって感じの世界でしょ。キャバクラって。それに、ミカからそう言われたものの、席に付いてもサッパリ誰だかわからない。アイドル? 歌手? 俳優?
「今時のモテ顔って感じだな…」
正直、第一印象はそんな感じだった。
隣に付いた男性が「こいつはな〜…」と、あたかも自分のことのように自慢してきて、そのとき初めて彼が歌手だということを知ったんだけど、それでも私はまったく彼のことを知らなかったんだよね。
話を聞いていると、有名な女性シンガーたちとフィーチャリングとかしているみたいで、「あたし知ってる〜!」と、ノリノリの後輩キャバ嬢の子が、半ば強制的にカラオケでデュエットし始めたんだけど、それでもわからない私って、流行に疎すぎるよね(笑)。
それからも、彼はよく店に顔を出してくれた。ある日は友だち数人と来て、若いキャバ嬢の子たちと朝方まで騒いでて。また、ある日は、仕事関係のお偉いさんらしき人たちと来て、何やら難しい話なんかして。
当然のことながら、レギュラー出勤している私は来るたびに顔を合わせていたし、何度か席に付く機会もあったけど、彼ときちんと話すことだけは、ほとんど無かったんだ。
でも、彼が初めて店に来た日から数か月くらい経ったとき。珍しく…というか、初めて彼がひとりで店に来たの。ジメっとした雨が降り続いていたせいか、ただたんに、平日だからかはわからないけど、お店も暇でお客さんも女の子も普段の半分ほどしかいない日だった。
ひとりで来た彼は、私を場内指名してきた。もしかしたら、太客が来るかもしれないのにと思いながら、なぜか、指名されて浮かれている自分がいて。そこで初めて、彼のことをもっと知りたいと思っている自分の気持ちに気付いちゃったんだ。…誰かを好きになって恋に落ちるのに、時間や会話って関係ないみたいね。
有名人ぶることもないけど、何となく他とは違うオーラがあって。仕事熱心な人だと思っていたら、3日連続店に顔を出してやっぱり遊び人かよとか思うこともあって。気付いたら、知らないうちに彼のことを見ていたみたい。
自分の中で、その気持ちに気付いてスッキリした私は、彼が待つ席に満面の笑みで駆け寄って行った。そのあと、私が幸せすぎるほど楽しい時間を過ごせたのは、言うまでもないよね?
取材・構成 LISA
アパレル企業での販売・営業、ホステス、パーティーレセプタントを経て、会話術のノウハウをいちから学ぶ。その後、これまでの経験を活かすため、フリーランスへ転身。ファッションや恋愛心理に関する連載コラムをはじめ、エッセイや小説、メディア取材など幅広い分野で活動中。
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