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初参戦“おんな人間狂気”AIとはいったい何者?

 IVANOV ROGOVSKI Jr.指名演舞人Ishtaria(イシュタリア)が、戦士へ捧げる鎮魂の舞を終えてリングを降りた後、一瞬華やぎかけた真っ黒なキャンバスのリングは、また闘いに飢えた戦士を待つ、“漆黒の闇の戦場”へと戻った。

 まず最初に入場してきたのが“格闘浪漫乙女”華名。2010年9月12日、埼玉・北浦和『PINOCCHIO』での「EXIT‐46 ANNIVERSAIRE」の試合において、初めて地下プロレスのリングに召集された女戦士であり、“超竜”高岩竜一との性別を超えた激闘は、プロレス界に大きな衝撃を与えた。そしてあの日、戦いを終えた華名の下に“暗闇の虎”ブラックタイガーが突如現われ、「『地下日本女子王座決定戦』への出場権を認める」と書かれた“認定書”を手渡し、忽然と姿を消したのであった。「地下日本女子王座決定戦」がいつ、どこで行なわれるのかは依然、謎のままだが、この日、フランス地下組織WUW(World Underground Wrestling)からの召集を受け、華名は再び地下のリングへと舞い戻ってきた。
 そして初めて耳にするテーマ曲が流れ、長身の女性が階上から一歩一歩階段を下りながら、ロープの代わりに張り巡らせたチェーンをくぐって漆黒のリングへと足を踏み入れた。

 そう、彼女こそが今回初めて地下のリングに召集された“おんな人間狂気”AIだ。素性はまったくの謎だが、兄紅によると5歳で極真空手池袋本部、大山倍達のもとに身を預けた打撃のスペシャリスト、その美貌と鍛え抜かれた身体が強烈なインパクトを与える。その全身から発せられる危険なオーラ。彼女こそまさに喧嘩上等“おんな人間狂気”AIなのだ。
 兄紅闘志也、妹AI。二人が醸し出す“狂気”のオーラは、まさしく血を分けた兄妹でなければ放てない鮮烈なものであった。

 リングインしたAIはツカツカと華名のもとへと歩み寄り、冷酷なまでの表情でメンチを切った。そして、それに応える華名。互いに一瞬たりとも視線をそらそうとしない。ちょうど時計の秒針が一周まわった頃、次のテーマ曲が鳴って“メトロ街の貴公子”SEIKENが入場。続いて“兇悪獣”ナイトキング・ジュリーもリングに上った。すると今度はSEIKENとジュリーの間で強烈なメンチ切りが…。試合の緊張感は嫌が上でも高まっていった。

 試合はAIと華名の対戦で口火を切った。いつもならローキックから始めるのが華名の闘いの定石だが、レスラーと違ってストライカーのAIが相手だけに、普段とは違うスタイルに変更。華名はAIの左足を取りにいこうとするが一筋縄にはいかず、互いに探り合いの状態が続く。

 そして、華名からタッチを受けたSEIKENがAIを“ロープ際”に追い込むや、鈍色のチェーンが“ガシャン”と鈍い音を立てた。その時、観客は改めてここが地下プロレスのリングであることを強く認識させられたのである。ここには男や女の区別など何もない、ただあるのは選ばれし者たちの激しい闘いのみ。SEIKENが馬乗りになってAIに「来いよ、来いよ」と挑発する場面も、ジュリーが華名を持ち上げて硬いリングに容赦なく叩きつけるシーンも、それらは地下プロレスにおけるごく当たり前の光景でしかない。

 男対男の場合もそう。何しろSEIKENもジュリーも、この5日後にはラウェイの試合を控えている。ラウェイとは、バンテージを巻いただけの素手で殴り合う、恐ろしいまでに原始的な立ち技の格闘技だ。そうした闘いの場に身を投じようとする二人だけに、そのリミッターの外れた思考回路は、常人とはひどくかけ離れたものがある。そして、女同志の対決もまたしかり。AIは華名をコーナーに追い詰めて蹴りを乱打し、ローキックからハイキックにつないでカウント7のダウンを奪った。一方の華名も、AIのローキックを掴んで裏アキレス腱固めからのアンクルホールドでロープエスケープを。そうした地下の流儀に沿った闘い模様が繰り広げられる中、ジュリーがSEIKENをベアハッグに取り、12分51秒、ギブアップ勝ちを収めた。

 試合終了のゴングが打ち鳴らされる中、AIは落胆した表情の華名ににじり寄り、両腕を肩よりも上にあげて力こぶを作り、これ見よがしに“敗者”華名に“勝者”の誇りを誇示した。AIが両手にはめた兄紅と同じ迷彩柄のオープンフィンガーグローブが改めて観客に強烈な残像を残し、さらに左右の上腕に彫ったタトゥーが不気味な存在感を醸し出す。

 AIの右胸には「愛」の一文字がタトゥーで彫られている。世界に一つしかない太陽の中心に「愛」が存在するという、強烈なまでの自己アピール。あるいは「私を中心に世界が回る」との対戦相手へのメッセージでもあるのか。はたして、地下のリングに突如現われた“おんな人間狂気”AIとは、いかにして育成されてきたのだろうか?
 そして! 試合を終え会場を出ようとする“おんな人間狂気”AIのもとに、突如どこからか“黒闇の虎”ブラックタイガーが現われ、AIに一通の書類を手渡したのである。同じ控室にいたレスラーたちはこの時、いっせいにデジャヴの感覚を覚えたという。いや、デジャヴなどではない。北浦和で華名が謎の書類を渡された時と寸分も違わぬシチュエーションだ。地下女子の闘いを、常にどこからか監視する “黒闇の虎”の眼。
 険しい顔つきのAIが怪訝な表情を浮かべながら広げたその書類には、華名の時と同様フランス語で「『地下日本女子王座決定戦』への出場権を認める」との文字が大きくしたためられていた。

 そして2010年を締めくくる闘いとして、格闘晩餐会に集う贅を尽くす会員たちに用意されたメインディッシュ。
 その舞台にはWUW世界地下選手権、紅闘志也と高岩竜一の至極の対決が用意されていた。
 Jr.ヘビー級の第一人者として、ありとあらゆるメジャータイトルを総なめにしてきた高岩が、日の丸を方手にワールドワイドにかけめぐる地下王者紅に立ちはだかる。
 二人の間には“暗黒サラブレッド”ジャガー・ロゴフスキーが立ち、父IVANOV ROGOVSKI Jr.指名立会人として、この試合がWUW世界選手権試合であることを宣言。本来、この日の試合に出場が噂されていたジャガーだが、結果的には立会人としての任務を遂行することになった。

 そしてジャガーの額には、大きなホッチキスが6つも打ち込まれ、まぶたにも縫い跡が残るという凄まじい生傷が…。
 「空手バカ一代」によって紹介される初代地下の帝王、ジャガーの祖父イワノフと同じ箇所についた傷。これはロゴフスキー家の伝統の儀式か、見る者に痛烈な悪寒を与える面構えだが、その眼は冷酷な光を放っている。
 ジャガーは「この試合を世界地下選手権試合であると認定する。WUW会長IVANOV ROGOVSKI Jr.…」と認定書を読み上げた後、「…代読。近い将来王者となる男、ジャガー・ロゴフスキー」と締めくくり、ロゴスキーの家宝である木彫りのベルトを奪った紅闘志也を睥睨してリングを降りた。「ジャガー・ロゴフスキーの復讐」を感じさせる強烈すぎるアピールだった。

 試合は“グラウンドの高岩”対“打撃の紅”という対照的な攻防が展開され、わずか5分の間に紅が3回のロープエスケープ、高岩はカウント8のダウンを奪われた。その後、紅が4回目のロープエスケープをした後に高岩からカウント4のダウンを奪い、このままシーソーゲームの様相を呈するかとも思われたが、高岩が通常のリングよりも遥かに硬い地下のリングで躊躇なくデスバレーボムを放ち、紅からカウント8のダウンを奪った。

 そして、ここが勝負の分かれ目とばかりにゆらりと立ち上がった紅に高岩が果敢に突っ込んだところ、一転して強烈なヒザをボディに食らうはめに。すると今度は紅がこのチャンスを見逃すはずもなく、畳みかけるように高岩を首相撲に取ってボディに3発ヒザを入れ、高岩がよろめいた隙を狙ってとどめにヒザをアゴにぶち込んだ。ゆっくりとその場に崩れ落ちる高岩。
 するとレフェリーは途中でカウントを止め、必死の形相で本部席にゴングを要請。試合は7分45秒、紅のKO勝ちとなり、ベルトは再び紅のもとへ帰ってきた。紅はそれを右腕にかけ、ファイティングポーズを取って勝利をアピール。
 4月にジャガーとの死闘で奪った地下世界王座を守り抜いたまま新年を迎えることに成功し、また2011年の闇の闘いに突入するのであった。

 2010年12月21日、東京・世田谷『ZEST CANTINA SETAGAYA』で繰り広げられた「EXIT-57 ZEST」。群雄割拠の末に塗り替えられたその新たな勢力分布図が、2011年の地下プロレスをますます過激に燃えたぎらせる!
(印束義則)

◆地下プロレス『EXIT-57 ZEST』
2010年12月21日(火)開始:19:00
会場:東京・世田谷『ZEST CANTINA SETAGAYA』

<第1試合>
○富豪2夢路、ペドロ高石(11分18秒 卍固め)小笠原和彦、●竹嶋健史

<第2試合 地下日本阿吽選手権>
[挑戦者組]○梅沢菊次郎、入道(12分18秒 逆エビ固め)[王者組]●三州ツバ吉、日龍
※第2代王者組が防衛に失敗、梅沢&入道組が第3代王者となる。直接勝利を収めた梅沢に阿の帯、パートナーの入道に吽の帯が授与される。

<第3試合 キャプチャーインターナショナル選手権>
○[挑戦者]矢野啓太(11分27秒 カールシックル)●[王者]ジョータ
※第8代王者ジョータが防衛に失敗、矢野が第9代王者となる。

<第4試合>
○ナイトキング・ジュリー、AI(12分51秒 ベアハッグ)●SEIKEN、華名

<第5試合 WUW(World Underground Wrestling)地下世界選手権>
○[王者]紅闘志也(7分45秒 TKO)●[挑戦者]高岩竜一
※第26代王者紅が7度目の防衛に成功。

地下プロレス『EXIT』公式サイト

http://www7.plala.or.jp/EXIT/
梶原劇画で伝承された「地下プロレス」が、この日本に存在した! 闇の闘いを伝える『EXIT』とは何か!?
http://npn.co.jp/article/detail/97320773/
紅闘志也、暗闇の頂上血戦を制し、新・地下世界王者に!! 4・18地下プロレス『EXIT-37 HIGHEST』(1)
http://npn.co.jp/article/detail/09843895/
華名、日本地下マットに女子初見参! そして…!?  9・12地下プロレス『EXIT-46 ANNIVERSAIRE』(1)
http://npn.co.jp/article/detail/18410126/
2010年を締めくくる地下プロレスの闘いに激震が走る『EXIT-57 ZEST』“世田谷冬の陣”。日本阿吽選手権王座交代!
http://npn.co.jp/article/detail/84761650/
CAPTURE INTERNATIONAL CHAMPIONも移動! 若き二冠王者矢野啓太。ベルトを、観客を、そして時代をも自らに引き寄せる
http://npn.co.jp/article/detail/52227271/

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