厩務員や助手の定年は65歳。それまでに重賞を勝つ人、勝てない人を比較すると、後者の方がはるかに多い。
そんな厳しい勝負の世界で、ブレイクランアウトを担当する織田洋平厩務員は、強運の持ち主といえるだろう。キャリアはまだ4年だが、桜花賞馬キストゥヘヴンとブレイクで重賞を5勝もしている。
しかも、桜花賞を勝った時は、厩務員になってまだ1年も経っていなかった。「あの時はテンパッちゃって、夢心地でした。記者さんの取材を受けても、こんなに落ち着いて対応できなかったと思います」。織田さんの脳裏を、当時の光景が走馬灯のようによぎる。
あれから3年、今は周りの状況がよく見え、的確にライバルの戦力分析もできるという。「今年はディープインパクト級の馬はいない。有力といわれる馬にもそれぞれ弱点があるでしょう」と意欲を燃やす。
飛躍の秋を迎えて、ブレイクは随分たくましくなった。昨年の皐月賞馬キャプテントゥーレとクビ差2着の接戦を演じた朝日CCが、それを物語っている。
一番成長したのは、「心臓が丈夫になり、追い切り後の回復が早くなった」ところだという。織田さんは頼もしそうに馬の顔をなでた。
体力の強化につれ、折り合いも進歩した。「ケイコは馬の後ろで我慢して、乗り役の指示通りに動けている。前走も掛かる場面は全然なかったですから。今なら、三千も克服できるはず」
前走で長距離輸送を経験し、仕上げのノウハウをつかんだのも大きい。織田さんは最後に、こう締めくくった。「心配な点は何ひとつない。力を出し切ればチャンスは十分あると信じてます」