英国貴族ガブリエル卿は、承知の上で曰く付きの城を買った。間もなくして就寝中、階段を上がってくる足音を聞いた。足音は寝室の前で止まるとドアをノックする。ドアを開けても誰もいないのだが、それを毎晩、朝まで繰り返された。ガブリエル卿は睡眠不足のまま、友人たちを招き引っ越し祝いをしていると、突然食器がひとりでに動き出した。ガブリエル卿は思い立ち、霊に話しかけた。「アルファベットを言っていくから、必要な文字を言ったら食器を叩き、言いたいことを文章にしてほしい」意図を解した霊によって作られた文章によると、霊は100年前に城に住んでいたカール・クリントで、恋人を争った相手を殺し城の地下に埋めたという。
後日、昔の記録を調べ事実であることを確認したガブリエル卿は、霊媒師を呼びクリントを呼び出した。現れたクリントは皆を睨み付けた。クリントは、ただ恋人と二人きりで、静かに暮らしたいだけなのだ。そこで、ガブリエル卿とクリントは協定を結んだ。クリントは恋人と地下で暮らし、ガブリエル卿は近付かない。クリントもガブリエル卿の前に現れない。こうしてガブリエル卿は足音から解放され、平穏に暮らしていた。
何年か後、引っ越す事情ができたガブリエル卿は、再び霊媒師を呼びクリントと再会した。別れの挨拶をし、協定を守ってくれた礼を言うと、クリントは驚くことを言った。「一緒に連れて行ってほしい」
こうして場所を替え、今も協定は守られ続けている。おそらく、ガブリエル卿がクリントの住む世界へ行っても続くのだろう。
(七海かりん/山口敏太郎事務所)