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「渋井哲也の気ままに朝帰り」つい行きたくなる行きたくなる、電話営業

 「おはよう。いま何してるの?」

 歌舞伎町の区役所通りにあるキャバクラのN嬢(21)は、ほぼ毎日のように、夕方になると、電話で営業をかけてくる。しかし、私はその箱(店内)があまり好きではないので、ほとんど行っていない。あまり行かない客で、しかも行ったとしてもそれほどお金を使うわけでもない客にどうして電話するのか、不思議なくらいだ。

 思い切って、なぜ毎日のように電話をしてくるのか、と聞いてみた。すると、

 「だって、最近飲んでないし、飲みたいなって」

 飲むくらいなら毎日してるだろう、と突っ込みを入れると、

 「てっちゃんとだよ」

 私はこの嬢に「てっちゃん」と呼ばれている。そう呼んでほしいと言ったわけではない。名前を言ったら、「じゃあ、てっちゃん、で」と言ってから、呼ばれるようになった。

 ちなみに、これ自体は珍しいことではない。名前を言うと、決まって、嬢たちは、「てっちゃん」と呼ぶようになる。だから、それに飽きてしまうと、こっちが逆に「キャバクラネーム」(客としての源氏名だ、と言うときも)を使ったり、名前を言わずに、「当ててみて」と意味不明な会話をしてみることもある。

 さて、話を戻そう。

 N嬢からの電話だが、効率の悪い営業だなって、私がキャバクラ嬢ならそう思っているはずで、おそらくこのN嬢も、「どうせ電話をしても、今夜も来てくれないんでしょ」と思っているはず。ほんと不思議だ。

 今日も電話があったが、

 「昨日はごめんね。飲みが歌舞伎町じゃなく、(新宿)2丁目だったので、行く・行かないという発想にもならなかったよ」

 とごまかしてしまった。

 私はなぜこの電話営業に応えないのか。この嬢が好きではないわけではない。

 この前も、

 「髪の毛、切ったんだ」

 という電話があったので、写メールを送ってもらった。すると、働いている姿よりも、かわいかった。接待する姿も悪くないが、素顔だと余計にかわいい。プライベートで出会っていたら、友達以上になりたいと思うほどだ。しかし、店に行くという気持ちがわかないのだ。電話をくれるのに、行けない私は、ほんとに申し訳けないと思う。

 でも、なぜ行きたいと思わないのだろうと、私なりに考えてみた。やはり、箱の雰囲気が一番だが、箱が悪くても指名で行ったことは何度もある。だから、箱が決定的ではない。だとすれば、営業スタイルか。毎日電話が来るのはうれしいのだが、その内容の問題かもしれない。

 N嬢はきまって、

 「今日は来てくれるんでしょ?」

 という言葉をどこかで使ったりする。やはり、営業の際には、嬢が「来てほしい」という気持ちがあったとしても、言葉にはしてほしくない。そう言えば、この前、つい店に行ってしまったとき、別の嬢の電話では、「来てほしい」という言葉はなかった。その気持ちを察して、

 「じゃあ、今夜、行くよ」

 と行ってしまったのだ。正確には言わされた、ということだろう。駆け引きはあまり好きではないが、このくらいの駆け引きは嬢もしてほしい。

<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。

【記事提供】キャフー http://www.kyahoo.jp/

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