「同僚は貢いでもらっている子が多かったですね。でも私は指名が取れる方ではなかったので、プレゼントを貰うことが少なくて…」
麻衣がキャバクラ嬢になった理由は、お金と好奇心。そして接客をしていれば客から貢いでもらえるのでは、という浅はかな願望だった。しかし客とのトークを弾ますこともできず、営業メールも手を抜き、ダラダラと接客を繰り返していた彼女。そんな麻衣に何かプレゼントしようとする客はほとんどいなかったという。しかしある男(以下:客A)が店を訪れるようになると事態は一変する。
「普通、嬢に貢ぐ人はお気に入りの子だけにプレゼントするものなんです。でも客Aはヘルプで席についた私にもノートパソコンをプレゼントしてくれました」
客Aと、たまに店へ出勤していた麻衣はそれほど面識があるわけではない。にもかかわらず家電をプレゼントすると言われたのだ。客から物を貰いたいという思いのあった麻衣は、その申し出をすぐ受け入れる。念願叶ってタダで物を貰えたことに喜ぶ彼女だったが、その喜びは思わぬ形で壊されることになる。
「客Aは私だけじゃなく、店の色んな子にテレビ、オーディオなど家電ばかりを渡していました。でもある日、同僚の子が、客Aから受け取ったプレゼントに盗聴器や隠しカメラが仕掛けられているのを発見したんです。私のパソコンも、内臓カメラが他のパソコンから監視できるように細工されていました」
無償でキャバ嬢たちにプレゼントを渡していた客Aの目的は、キャバ嬢の私生活を覗くことだった。本人と身内しか知りえない情報を、客Aが接客中に口走り、それを不信に思った嬢が業者に依頼。すると部屋のテレビから小型カメラが見つかり事件が発覚したという。
「やっぱりよく知らない人から、プレゼントを貰うなんておかしいですもんね。貰えれば何でもいいという考えを、今は改めました」
キャバクラを訪れる客に恐怖を抱いてしまった麻衣は、夜の仕事から足を洗った。現在は都内でOLとして働いている。
(文・佐々木栄蔵)