『敬遠四球の申告制』に関する是非は、各メディアが報じている。プロ野球各球団首脳陣、解説者など意見はさまざまだが、高校球界は意外にも冷静だった。
「アマチュア球界は人を介して、メジャーリーグでそういう動きがあることを聞かされていたようですね」(社会人野球関係者)
独自の情報ルートを持っているのはプロ野球会も同じだ。それでも冷静である理由は、今回の申告制と類似した“変則ルール”をアマチュア野球界は経験してきたからだという。
「20年以上前になりますが、アメリカ遠征で敬遠を省く特別ルールで試合をやった思い出話を(指導者の)先輩たちに聞かされたことがあります。アメリカは時間短縮に力を入れており、近年でも、二死の場面で捕手の打者が出塁したら、特別代走を出して、攻守交代時のレガーズ着装の時間を省かせる試合もありました」(学生野球指導者)
“特別ルール”の試合を経験してきたからだろう。「やっぱり、出たか」というのが正直な感想のようだ。
もっとも、申告制そのものについては賛否両論で、日本国内のアマチュア公式大会にそれを導入するかどうかを検討することになれば、それなりの時間は掛かるようだ。アマチュア野球の大会は主に公営競技場で行われる。「日程内、時間内に試合数を消化するため」であれば、受け入れざるを得ないと予想する声も聞かれたが…。
「試合中に生じる失策のほぼ半分は『送球関連』なんですよ。敬遠が申告制になれば、敬遠球の暴投もなくなるわけですから、まさに時間短縮となるでしょうね」(学生野球指導者)
しかし、失策をハプニングと置き換えた場合、「敬遠球を打ち返す」「タイトル争いに水を差す行為に抗議して」「ベンチの指示を無視してライバルとの勝負に出る」といったドラマは見られなくなる。投手出身のプロ野球解説者もこんな話をしてくれた。
「敬遠で4球を投じる約30秒間に守っている側が呼吸を整える、守備陣全員でサインを確認するという『間』がなくなります。野球は『間』のスポーツだと思っているので、申告制になればゲームが単純化していくと思う」
メジャーリーグが時間短縮を目指す背景に、テレビ文化との共存がある。コマーシャルを入れるタイミングもそうだが、試合が長時間化すれば視聴者は離れていき、広告出資する企業も二の足を踏んでしまう。
高校野球はどうか? 1試合平均は2時間台である。試合途中、プロ野球と同じようにグラウンド整備も行われているのに、だ。プロ野球はバッテリー間で交換するサインも複雑で、リリーフ投手を何人も投入するので自ずと時間も長くなってしまう。それはそれで分かる。だが、高校野球の試合時間はさほど長くない。『敬遠死球の申告制』で高校球界が動じないのは、それを導入しなくても試合時間を短縮する方法を知っているからではないだろうか。攻守交代時にダラダラと歩くヤツもいないし…。(スポーツライター・飯山満)