他にも、夫婦妖怪とも言われているコンビで出てくる「手長足長」は、火山から噴出した火山弾や溶岩が吹き上がる様子を妖怪化したものだと推論されているし、妖怪「ダイダラボッチ」も山そのものを妖怪視した結果、生まれた存在であるようだ。
逆説的に説明していくと、落雷という現象は妖怪「雷神」や妖怪「がごぜ」と解釈され、人々を苦しめてきた台風は妖怪「一目蓮」とされ、暴風雨や雨風は「龍神」として表現された。人類の英知が及ぼさない自然現象は妖怪と解釈することで諦めがついたのだ。
自然現象を妖怪化する逸話で興味深いものを紹介しよう。秋田県尾去沢の奥地に大森山という山がある。文明13年(1481年)、この山に翼長20メートルに及び、全身が怪しく光る怪鳥が出現した。怪鳥は火炎を吹きながら飛行し、奇声と共に田畑を荒らし回った。恐怖に震えた人々は山伏に怪鳥の退治を依頼した。快諾した山伏は怪鳥退治に取り掛かった。
数日後、大森山から怪鳥の悲鳴が聞こえた。村人たちが恐る恐る鳴き声のした場所へ行ってみると、怪鳥が血を流して死んでいた。山伏の話によると、大森山の神が獅子に化けて怪鳥を退治してくれたというのだ。怪鳥の血はそのまま沢に流れ込み、真っ赤に染まったという。この伝承からその沢は赤沢と呼ばれるようになった。
また、怪鳥の腹を割いてみると金や銀、銅などの鉱物が入っていた。それを見た尾去の村長は夢で鉱物の埋まっている場所を見た事を思い出し、夢で見た場所へ行ってみたところ鉱脈を発見した。これが鹿角の尾去沢鉱山の始まりとされている。
修験者は山に入る事が多く、また鉱脈がどこにあるか長年の経験から知識として得ている。大森山の怪鳥伝説は、山の民の協力のもと鉱山を拓いて安定した生活が送れる故事を表しており、火炎を吹いて暴れ回った怪鳥とは、鉱物が埋まっていた鉱山そのものを指しているのかもしれない。
(山口敏太郎)