同作はゴジラ30周年記念映画として公開された。前作の『メカゴジラの逆襲』から9年ぶりとなったこの作品は、それまで「東宝チャンピオンまつり」の企画内で放映されていた「子供のアイドル」路線をリセットし、再びゴジラを、「恐怖の存在」として描き直した転換点的な存在となっている。後に、95年まで続いた「vsシリーズ」と呼ばれるゴジラシリーズも、この作品の世界観がベースで話が進む。
vsシリーズ第1作目といっても支障はないのだが、次作の『ゴジラvsビオランテ』まで5年期間が空いているため、特にゴジラの造形には大きな違いがある。vsシリーズのゴジラといえば、獣感のある表情と、ずっしりとした筋肉質の胴体、大きな背びれが特徴だが、この作品では、1954年公開の初代ゴジラに寄せた造形となっている。また、「サイボット」と呼ばれる技術で、全長4.8メートルのロボットゴジラを、コンピュターで動かすという、最新技術を使った作品でもあった。なお、サイボットの技術は当時ではプログラミングの大変さや扱いにくさもあり、一部のシーンでしか使われておらず、ほとんどは従来通り着ぐるみでの撮影となっている。
この作品は、54年初代ゴジラの出現だけは、作品の設定として残しており「30年後にゴジラが現れたら?」というコンセプトを元に話が作られた。正直ファンの間でも、あまり評判が良くない方の作品ではあるのだが、それでも前半部分の展開は、文句なしで初代にせまる勢いの出来の良さだ。
冒頭の遭難した船にゴジラの鳴き声だけが響くワンシーン。その後もゴジラの姿形は全く見えないのだが、段々と異常事態が明らかとなり、事実を隠し切れなくなった政府が「ゴジラは、まさしく生存しております!」と発表する。このあたりのワクワク感はかなりのものだ。途中で巨大フナムシとか、しょぼい造形のモンスターが出てくるが、それも気にならないほどに。新たなゴジラの登場を盛り上げるには、最高のシーン構成と言えるだろう。
だが、その後がこの別物と思うほどに、とにかくダルい。いくらなんでも、ゴジラの登場をもったいぶりすぎだ。当時は米ソ冷戦がまだ続いていたので、そのことや核兵器に対する、当時の日本政府のスタンスを絡めようと尺を使いすぎ。米ソの思惑はざっくりで片付け、林田信博士(夏木陽介)の、ゴジラが反応する超音波の研究の方をもっと掘り下げた方が良かったのではないだろうか。ラストシーンにも関わる重要な設定なのに、このおかげで影が薄い。
さらに、肝心のゴジラが登場してからも、気が抜ける展開が待っている。ゴジラを自然災害のように見立てた、明らかに初代ゴジラのいいところだけを利用しようと意識した展開がことごとく裏目に出ているのだ。新宿を我が物顔で歩くゴジラのすぐ近くで、逃げているのかもよくわからない感じで、うろつき回る人間。しかも、緊急時にも関わらず普通に新幹線が走っていて潰されるし…、もうゴジラの為に走ってるようなものじゃないか。そもそもソ連がうっかり核ミサイルの発射装置を誤作動させてしまって、東京にミサイルが向かっていたのではないのか? なぜ悠長にゴジラを見物しているんだ。加えて、特別出演の武田鉄矢の大げさ演技が乾いた笑いを誘う。もっとマシな登場のさせ方はなかったのか…。
初代ゴジラ時は、空襲経験者も多くいただろう、逃げる演技が本作とは桁違いに危機迫っている。同じような展開で、危機感が違うのでは、ただの劣化シーンだ。巨大生物による被害を描きたかったのならば、もっと別アプローチをするべきだっただろう。残念ながらそのあたりのシーンを細かく描写した作品は、後のゴジラシリーズではなく、平成ガメラシリーズの『ガメラ3 邪神覚醒』だったが。ちなみに、ガメラ3で、特撮技術の監督をしていた樋口真嗣監督は、今回の『シン・ゴジラ』で監督兼特技監督を務めている。
現実にはない、超兵器「スーパーX」などについては、批判もしたいところだが、後のシリーズではこの設定が役立つことになるので置いておく。最後のゴジラの倒し方も、超技術を使うにしても初代の「オキシジェンデストロイヤー」を超えるものはなかなか作れるものではないので、火山噴火という自然災害を利用したという点はまあ評価できるだろう。首相役の小林桂樹が、危機が去ったのにもかかわらず、喜びもせずに渋い顔をしているシーンなども印象的だ。しかし、そこに至るまでのテンポの悪さが、この作品の評判の悪い大きな理由となっている。やりたいことを詰め込み過ぎてダメになった作品の典型例ともいえるだろう。
が、久しぶりのゴジラ作品ということで、興行収入としては、かなり健闘したものとなり、同作の世界観を利用した「vsゴジラシリーズ」が始まることとなる。賛否両論、むしろ否の方が多いかもしれないが、この作品で、グダグダな部分が多いながらも、しっかりと人間側のドラマを見せたことで「大人も楽しめる」という部分を強調した形となった。次作となった『ゴジラvsビオランテ』がファンの間で評価が高いのは、本作で始めた挑戦が良い方向に活かされているからだ。その点考えると、この作品の残念な部分も多少は許せるかもしれない。
(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)