マジックが点灯した巨人以上に球界を盛り上げているのが、セ・リーグ最下位ながら躍動するヤクルトの選手たちだ。昨年、史上初となる3度目のトリプルスリーを達成した山田哲人内野手(27)が8月23日、昨季から続く盗塁の連続成功を33に伸ばして日本新記録を樹立すれば、19歳の村上宗隆内野手は高校卒業から2年目以内ではプロ野球史上3人目となるシーズン30本塁打を達成。西武・清原和博(当時)以来33年ぶりの快挙で、あの“ゴジラ”松井秀喜をも凌ぐ活躍だ。
こんな展開を予測し、ヤクルトを先物買いしていたのが、IT大手でソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の草分け的存在であるミクシィだ。今季からヤクルトと総額4億6500万円のトップスポンサー契約を締結。将来的な球団買収を視野に、ヘルメットやユニホームにロゴを入れ、ブランド力強化を下支えしている。
大手広告代理店の関係者によると、ミクシィは今回の提携を足がかりにスワローズの株を買い進め、5年ほどをかけて最終的に100〜130億円規模で球団株を買い取る計画を進めているという。’11年にTBSから約65億円で買収した横浜DeNAを参考に、都心の一等地なら2倍の価値があると分析しているのだ。
「ミクシィは今年1月、傘下のスマートフォンゲーム『モンスターストライク(モンスト)』などを展開するゲームブランド『XFLAG』で東京フットボールクラブ(FC東京)とスポンサー契約を締結。都心でのビッグクラブ設立を提案しています。東京をフランチャイズにするプロ野球とサッカーチーム買収という二方面にアタックです」(スポーツ紙デスク)
プロ野球とJリーグを融合させるのは、相乗効果でミクシィの本社がある東京・渋谷を日本のスポーツのメッカにする狙いがあるからだ。東京五輪後、神宮球場が建て直しとなることから、同社は5カ年計画でヤクルト球団の株式過半数と建て替え後の新神宮球場の運営権獲得に動いている。
さらに今回の神宮・渋谷エリア再開発で見逃せないのが、新国立競技場の形態だ。フィールドのトラックを残し、陸上競技場として残す計画が示され、サッカースタジアム転用案は消滅。その一方、新たに代々木公園に収容人数3万人規模のサッカー専用スタジアムを建設する構想が浮上しているのだ。
「ミクシィは、『代々木公園スタジアム』の経営権も手にした上でFC東京の本拠地を移転させ、スワローズと経営を合体して傘下に収める戦略。これは楽天の三木谷浩史会長が密かに進めていた“ビッグクラブ構想”と重なるが、同社は既に仙台と神戸に球団(クラブ)を所有していることから反発が多く、まだ手垢がついていないミクシィの参入が有力になっている」(一般紙の経済部記者)
問題は、モンスト頼みのミクシィ(東証マザーズ上場)に、果たしてそれだけの資金力があるかだ。しかし、実は東京五輪を契機に最も大バケが期待されている会社の1つが同社なのだ。
ミクシィは男子バスケットボールBリーグ1部「千葉ジェッツ」や競輪の車券ネット販売事業「チャリロト」を子会社化するなど、スポーツ事業に大きく転換を図っているところ。世界的に人気が高まっている「eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)」を牽引しているからだ。
eスポーツは、コンピューターゲームを使って対戦するスポーツ競技で、欧米では高額賞金の大会が多数あるほど盛ん。今年7月にニューヨークで行われた大会では、優勝した16歳の少年が賞金300万ドル(約3.2億円)を獲得して話題になった。世界中で約3億8500万人のファンがおり、日本においてもユーチューバーとともに子供たちにとって憧れの職業となっている。
「主軸はSNSと思われがちですが、ミクシィはスマホゲームを主体とした事業が売上の9割超を占める企業です。事業転換を成功させたのが、2018年からミクシィ代表取締役に就いた木村弘毅社長(43)。気鋭の経営者は五輪を契機にスポーツ事業への再転換を図り、とりわけ『eスポーツ』推進に心血を注いでいます。その秘策がスワローズとFC東京を合体する“巨大クラブ構想”で、費用対効果は十分あると弾き出しているのです」(経営アナリスト)
実際、eスポーツは昨年のアジア大会2018ジャカルタでデモンストレーション競技として採用され、次回の中国・杭州2022大会から正式メダル競技となる。IOC(国際オリンピック委員会)も五輪競技の採用に動いていて、日本でもeスポーツ競技の創設が本格化。ゲーム大手のコナミデジタルエンタテインメントが賞金総額2億円以上の大会を企画するなど、ライバルも少なくない。
今秋、渋谷駅真上に完成する渋谷スクランブルスクエア(地上46階)への本社移転が控えているミクシィ。これに合わせ、ヤクルト買収計画も加速しそうだ。