「イチローが大リーグに登場した2001年は、アメリカのファンも注目していました。シュアなバッティングで足が速く、レーザービームと賞賛される肩もある。そして何より、この入団1年目にア・リーグ西地区で優勝したのも大きかった。チームはシーズン最多勝タイ記録(116勝46敗)のおまけつき。イチローは新人王に首位打者など、これも記録ずくめ。本拠地のシアトルは日本人が多いことも手伝って、大いに盛り上がりました」
衝撃的だったイチローのメジャーデビューの年をそう振り返るのは、大リーグ取材が長いフリージャーナリスト。シアトルの町を歩いていると、「イチロー、グレイト!」と声をかけられることは珍しくなかったという。ところが、ここ数年はイチローが活躍しても話題になることは少なくなった。フリージャーナリストが続けて言う。
「マリナーズがここ5年で最下位4度と、成績が振るわないのが大きい。イチローが打っても、『負け試合でいくら打ってもねー』という雰囲気がありありと伝わってきます。チームが優勝できないまでも、ワイルドカードで地区シリーズに進出していれば(ファンの)反応は違うのでしょうけど…」
弱いチームで個人成績を伸ばす選手を、日本でもよく見かける。イチローを同列視はできないが、シアトルのファンは話題になるのがイチローばかりだけに、さすがに食傷ぎみなのだ。
「僕だけが打ってもねー。チームメイトがその気になってくれないと」
イチロー独特の言い回しでよく嘆いているが、チームの士気は上がらないまま、今年もまたシーズンを終えようとしている。記録を達成して、「疲れました」とプレッシャーを口にしたイチロー。残り試合でモチベーションを保つとすれば、張本勲氏の日本最多3085安打を抜くこと。
「1試合1本打ち、そのうち2試合2本打てばいいわけですよね」
張本氏が、自身の記録とは比較の対象にならないと、暗に軽視した発言を知っているイチロー。「張さん」と間違って発言したかのようなポーズを取りながら、先のように言ったのはプライドのなせるひと言だったのだろう。
尊敬するソフトバンク王貞治監督が、「やっぱり並の選手じゃない。来年は新記録を達成できるでしょう」とエール。さらに、「(来年のWBCに)出て欲しいと思っているのはおれだけじゃない。日本のみんながそうでしょう」
WBC監督がまだ決まっていないだけにイチローも言及していないが、2大会連続出場はまず間違いない。
ところで、当面目標にしてきた記録を達成して来シーズンも9年連続200本に挑戦することができるのか。
「いい意味でマイペースな性格。周囲の雑音には気にもとめないから、意欲さえあればチャレンジできる。問題はチームメートとの関係。気のないプレーをすると、舌打ちせんばかりに非難することがある。今のところ、『イチローには言わせておけばいい』で済んでるが、何かのきっかけで反発が表面化しないか。それだけが心配です」(前出・フリージャーナリスト)
イチローの敵は、意外にもチームメートらしいのだ。