憲法改正に絡んでの急ピッチな政局の流れを全国紙政治部デスクが解説する。
「実は、安倍さんが衆参ダブル選挙をやるか、やらないかは最近まで不透明だった。多くの論者は、ダブル選の根拠を2度延期した消費税を再々延期のためと推測。なぜなら米中貿易戦争で日本経済は今、消費税値上げなら未曽有の不景気に陥る危機にある。もう一つの根拠は、6年前の参院選大勝の反動での大負けを危惧し、参院選で少数与党に陥る“ねじれを防ぐため”といわれました」
6月に入りダブル選挙の風は一気に凪の状態。参院選単独の流れが強まった。
「安倍首相は消費税値上げで景気の落ち込みは困る。だが、それ以上に推進したいのが歴代自民党総裁が誰もできなかった憲法改正を成し遂げることです。ダブル選挙を最後まで強く望んだ本心は、参院改憲勢力が国会発議議席の3分2から大きく欠けることを懸念したからに他ならない」
と語るのは政界事情通。
「ところが、5月の新元号『令和』効果で『参院選単独でも自民党は大負けしない』という党独自の世論調査結果が出た。先が読めたからこそ、安倍首相は参院選単独にぐっと傾斜したわけです。そこで重要になってくるのは国会発議の参院3分2、164議席の改憲賛成勢力の確保です」(同)
維新関係者が引き継ぐ。
「改憲に向け機を見るに敏な橋下氏が、安倍首相との懇意な関係を最大限活かし、動いたのです」
まずは維新の立ち位置を確認しておこう。維新は大阪都構想で反対の自公に対抗するため、府知事・市長クロスダブル選挙に打って出て大勝。同時に府議、市議選でも圧勝。さらに、衆院大阪補選、堺市長選でも勝ち、関西では向かうところ敵なしの状態。その勢いで都構想反対、改憲に躊躇していた公明党に橋下氏はこうプレッシャーをかけた。
〈維新の勝利は大阪万博実現を推進してくれた安倍首相のおかげ。維新は、その安倍さんが推進したい改憲を応援するべき。改憲を阻んでいるのは公明党。安倍さんに負けないくらいの改憲論者である松井さん(大阪市長)は公明党を潰しにいく〉(5月、産経新聞とのインタビュー)
つまり、「公明が都構想反対、改憲に躊躇するなら維新は大阪、兵庫の衆院選挙区で対抗馬を立てる」という強烈パンチを繰り出すことを示唆。結局、公明は都構想賛意に転じた。
時を前後して、安倍首相の側近である下村氏は6月3日のBS番組で「大連立などの大技を駆使しないと憲法改正は難しい」と言及している。当然、安倍首相の意図を忖度しての発言だけに公明は与党としての存在感が弱まるとして大慌てしたのは想像に難くない。
今後、安倍官邸、橋下氏らは改憲と大連立に向けどう動くのか。
参院定数は定員増で夏の参院選後は245議席。改憲に必要な国会発議議席は164議席。自民は参院での現有議席は123、公明は25。
「参院選前でも自公148議席で発議には不足している。ここに改憲賛成の維新と無所属を加えても発議議席ギリギリ。だが、公明は大阪都構想同様、本音では改憲反対。だから参院選後もダラダラと先延ばしにしたい思惑が見え隠れする」(前出・維新関係者)
今回の参院選、自民は67議席が改選。当初、この議席は50議席前半確保なら御の字といわれた。しかし、最近の自民党調査では60議席超えもあるとしている。
公明は11議席が改選。当選の可能性は13議席と目され、非改選14議席と合わせると27議席となる。自民は60議席獲得なら非改選と合わせ116議席。これに公明の27議席プラスなら自公で143議席。それでも改憲発議3分2の164議席には21議席足りない。
「維新は元神奈川県知事の松沢成文参院議員や、地域政党『減税日本』代表の河村たかし名古屋市長らと連携し、全国に勢力拡散を図っている。この勢いで維新は参院選では10議席確保、非改選と合わせ16議席前後を目指す。ここで単に改憲協力ではなく、大連立なら改憲議席も159議席。だが、まだ残り5議席が不足する。ここに非改選含め25議席前後確保する可能性のある国民民主党が大連立に加われば、さらに公明にプレッシャーを与え、他党が参院選で取りこぼした議席も補い改憲勢力を盤石にする戦略が成り立つ」(同)
国民民主党の大連立に関しては次のような話もある。
4月15日、東京・赤坂の日本料理屋で石原慎太郎元東京都知事と亀井静香元金融担当相が安倍首相と会食。その際、玉木雄一郎国民民主党代表を安倍内閣の閣僚に取り込む大連立の話で盛り上がったという。
安倍官邸が描く改憲スケジュールは秋の臨時国会での改憲審議開始。2020年通常国会での衆参改憲発議、60日から180日以内に国民投票で改憲賛成多数なら、6カ月後に改正憲法が施行される。
ただ、来年は東京五輪もあり日程はタイト。橋下氏らを巻き込む大連立構想、憲法改正は成功するのか。ヤマ場は参院選だ。