7月4日、田中が試合前の練習中に右太股の肉離れを訴えた。この一報にマーティー・ブラウン監督(47)も驚いていたが、それ以上に慌てたのは、球団フロントのようである。この日は『マツダオールスターゲーム2010』のファン投票による選出選手が発表される段取りになっていた。
「先発投手部門1位の杉内俊哉(ソフトバンク=29)と、田中(3位)は9万票前後離れていましたが、球団は逆転1位に備え、いちおう、記者会見場の準備も整えていました。多分、球団は後日、監督推薦で田中が選ばれるのを知っていたんだと思います。監督推薦でノミネートされるのは前半戦の成績が良い選手ばかりだし、マー君が選出される“内示”みたいな連絡も入っていたんだと思います。毎年、リーグ監督を務める指揮官も選手発表前、各球団に誰を選ぶべきかを相談しますし、各球団の看板・人気選手を選ぼうと配慮もしていますので」(球界関係者)
会見の準備も整い、あとは当落に関係なく、田中の登場を待つだけ。そんなときだった。田中が激痛を訴えたのは…。
予定通り、田中は会見上に現れた。ファン投票による出場は叶わなかったが、笑顔で対応していた。
「監督推薦で選ばれたら? (中学時代の同級生)巨人・坂本が対戦したいと言っている? そうですね、そのときは…」
しかし、どういうわけか、コメントは歯切れの悪いものばかりだった。
ここで、田中の故障に関する情報を整理したい。会見の時点で、報道陣は肉離れの故障を知らされていなかったのだ。会見終了同時に病院に直行しており、逃げるように球場を去っていく様子に「何かあったんですか?」と、球団職員に質問。ワンテンポ置いてから、故障の経緯が伝えられたのである。「だったら、早く言ってくれよ!」−−。会見で球宴に関する質問をした報道陣は記事差し換えで大慌てとなったが、実は球団も混乱していた。
翌5日、オールスター戦の監督推薦選手が発表される。この発表前に田中の登録抹消が間に合うかどうか、分からなかったのだ。
野球協約第86条によれば、オールスター戦選出選手が『辞退』した場合、自動的に一軍登録が抹消され、球宴後10試合は再登録できない規則になっている。過去、故障を理由に球宴出場を辞退した選手が、後半戦初戦からスタメン出場する“珍事”も起きている。ファンへの冒涜行為であり、球宴出場による体力的負担の軽減を狙ったものなら、「ペナルティーを課す」と決めたのである。
つまり、田中の出場登録抹消が間に合わなければ、『球宴出場辞退』となり、後半戦10試合の一軍登録はできなくなる。球団はそれを恐れたのである。
「田中は本当に怪我をしていたわけだし、コミッショナー事務局も認めてくれました。ただ、4日は日曜日でしたし、連絡がちょっと遅れていたら、どうなったか分かりませんよ。『例外措置』となるので、他球団が反発するでしょうし…」(前出・関係者)
翌5日、パ・リーグを指揮する梨田昌孝監督(56)は永井怜(25)、川岸強(30)の2人の楽天投手を選んだ。
こういう場合、代役は同じチームから選ぶのが一般的だ。永井はプロ4年目で初出場、川岸は06年オフ、中日を解雇され、そこから這い上がった苦労人である。どちらも今回の球宴初出場に感激しており、「田中の代役」を探し当てるのは適当ではない。
「田中の登録抹消を急いだということは、後半戦10試合を消化する前に再登録のメドが立っているんだと思います」(プロ野球解説者の1人)
今季、楽天からは5人の選手が球宴に選ばれた。ソフトバンクからは6人、日本ハムは4人、オリックスは3人、千葉ロッテは5人、埼玉西武も5人。出場選手の人数を見れば分かる通り、もう楽天は新興球団ではなくなった。登録抹消のオタオタはともかく、後半戦の巻き返しに期待したい。