逆転負けを喫したレイズ戦後(5月16日/現地時間)、イチロー(36)は不機嫌そうにそう答えた。彼がリップサービスをしないのは有名だが、いつも以上に不機嫌だったのは、ロッカールームに入った日本人メディアにも伝わってきた。
連続マルチ(複数安打)の7試合でストップし、自己新記録の更新がならなかったからではない。チームの不甲斐ない敗戦にも原因があるだろう。自身は絶好調でも、チームは連敗。しかも、不運なアクシデントの連続…。「やってらんねえよ!」というのが、ホンネではないだろうか。
「レイズ戦はノーヒットに終わりましたが、イチローの打率は3割5分1厘で、このペースで行けば、今季は236本のヒットを打つハイペースぶりです(34試合で54安打)。前日まで7試合連続マルチでしたし、打撃は好調です」(現地特派員の1人)
しかし、イチロー1人が打っても、チームが勝つとは限らないのが野球だ。
仮に8試合連続をマークしていれば、02年のD・レラフォードの持つ球団記録、及び、オリックス時代に作った自身最長に並んでいた。イチローを不機嫌にさせた『不運なアクシデント』だが、たとえば、前日のオリオールズ戦がそうだった。
2点リードの8回表の攻撃。一死一塁の場面でイチローは、右翼線に鋭い打球を飛ばした。文句ナシの『長打コース』になるはずだった。しかし、一塁走者の捕手ムーアが二塁ベース上で顔を顰めた。左ヒザを抱え、動けないでいる。イチローは慌てて一塁へ引き返し、シングルヒットにしかならなかった。
「ムーアの故障は分かっていました。控え捕手のジョンソンも故障を抱えているので、ドン・ワカマツ監督が代走を送るのを躊躇ったんです」(前出・同)
次打者が併殺打に打ち取られ、好機を逸した。9回にはサヨナラ被弾を浴び、マリナーズナインは下を向くだけだった。「イチローのヒットが長打になっていたら…。代走を送られてきたら」−−。
また、13日もオリオールズに屈辱を喫している。この日、イチローは今季初アーチを放ったが、1点を追う9回二死一、二塁で打席がまわってきたとき、悲劇が訪れた。イチローは『技アリ』の流し打ちで三遊間を割った。同点…。誰もがそう思った瞬間だった。左翼手・パターソンが“予想外”に前進していたのだ。二塁走者は前進守備のパターソンからの本塁送球により、タッチアウトで試合終了…。
「(自分の)頭上を抜かれたら仕方ない。そう思って」
パターソンは賭けに出たとコメントしていたが、それなりの計算があって、投手の投球開始と同時に前進ダッシュをしたのである。「イチローの左方向の打球は長打が少ない」−−。パターソンは2か月ほど前までは“同僚”だったのである。マリナーズのキャンプに参加していたが、開幕直前に放出された。オリオールズに拾われたものの、メジャー昇格はこの2日前だったという。
逆転を許した8回裏の守備にしても、イチローは本塁に好返球を見せている。「タイミング的にはアウト」だったが、捕手・ジョンソンが捕り損ねてしまった。周囲が足を引っ張っていると言っていい。
「日米通算550盗塁を決めた12日も、ご機嫌斜めでしたね。チームが負けたからでしょう」(前出・同)
マルチを放った7試合の間、イチローは取材拒否で球場を後にした日もあった。ヒットを打っても、守備で強肩返球をしても、勝てないストレスは“爆発寸前”なのである。
「イチローは好返球をお手玉したジョンソンを指して『あんなもんでしょう!?』と言い放っています。チーム全体が批判されても仕方ない凡ミスを続けていますが、ちょっと心配ですね」
日本人メディアの多くはそう心配する。イチローに非はないが、こういう不貞腐れた態度や同僚批判は内部崩壊にも発展しかねない。ちょっと近寄りがたいピリピリムードも、日本人メディアは感じ取っている。今季達成されるだろう『10年連続200本安打』の記録を指して、こんな懸念も聞かれた。
「最悪の事態を想定しておかないといけませんね」(日本人メディアの1人)
最悪の事態とは、『10年連続200本安打』の記録達成の日も、「敗戦でノーコメイトなんてことになりはしないか!?」ということ。それだけは避けてもらいたいものだが、今、イチローは勝つことの難しさを痛感している。