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都市伝説「干し柿」

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画像はイメージです。

 これは20年以上前に、筆者が聞き取りした都市伝説である。

 都内の某私大に通うFくんは、僻地探検を趣味としていた。俗に言う廃墟という場所である。

 彼は人々が立ち去った廃村ひなびたムードを好み、その風情を愛していた。

 廃虚に行っては、写真を撮ってきたり、スケッチをしてくるのが大好きだったのだ。

 ひょっとすると、自分の心の原風景を探していたのかもしれない。

 「人々が生きた痕跡って、味わいがあるじゃないですか」

 彼は、はにかみながらそう答えた。

 こうして、Fくんは、そんな寂れた風景を求め、あちこちを旅していた。

 ある時 Fくんは仲間数名と富士の樹海の探検を思い立った。思い立つと我慢できないのが彼の性分である。

 「一度、あの魔所と呼ばれる場所に行ってみたいね」

 興奮気味にしゃべるFくん。親友で旅行仲間であったSくんは止めた。

 彼は樹海の近在の出身で、その恐怖を知っていたのだ。

 「やばくねえか、あそこは」

 しかし、こんなことでやめるFくんではない。

 「でもさ、人間の終焉の地としては最高だよ」

 結局、樹海探検は決まってしまい、Sくんもなし崩しに同行することになった。Fくんは、万一遭難してもいいように、かなり重装備で樹海探検にでかけた。

 兎に角、コンパスなど役に立たない場所である上、複雑な地形である。用心に越した事はない。

 そして、探検が開始された。

 「おい、随分と妙な地形だな」

 「確かに、歩くだけでも疲れる」

 地元出身の友人Sくんの力を借りながら、樹海のあちこちを探検した。樹海を覆う地表には、奇妙な岩や足をとられる粘土が広がり、歩行を苦しめ続けた。

 だが、とうとう疲労困憊となってしまった。

 「ああ、もう限界だ、少し休みにしないか」

 さしものFくんも弱音が出てしまった。

 「まったくだ。俺も腹が減ってたまらない、飢餓状態だね」

 Sくんも待ちかねたという表情で同意する。

 二人は笑顔で弁当を取り出した。自然の中で食べる弁当ほどうまいものはない。これも、廃墟や僻地体験の醍醐味なのだ。

 「この瞬間がたまらねえな」

 Fくんは大きく深呼吸すると、弁当を食べ始めた。

 「よし、食うか」

 食事をしながら、Fくんは気になるものを見つけた。あれは、なんだ。

 木々の合間に干し柿のようなものが揺れている。

 しわしわに乾燥した丸い物体が風にそよいでいるのだ。

 こんなところに柿の実か、でも季節違いだ。

 Fくんは、目を凝らしその物体を見つめた。

 「やっぱ、干し柿だよな」

 干し柿が、風になびいてゆらゆら揺れている。

 ああ、そうか。去年の取り残しがそのまま干し柿となったのだな。

 「へえ、こんな事もあるんだ」

 Fくんは、その干し柿に駆け寄った。なかなかいい色に出来上がっている。

 Fくんは、その柿を手にとってみた。

 手にねちゃっと、液体のようなものが付着した。

 「うわっ、まだ水分が残っている」

 Fくんは、その液体をズボンで拭いた。同時に、すえた匂いが鼻腔を刺激する。

 また、柿の大きさも異常である。こぶしよりも大きい干し柿なのだ。

 「これって、干し柿? 」

 よくみると枝になっているのではなく、ワイヤーにぶらさがっているようだ。

 「ワイヤーに垂れ下がる柿とは変だな、ん? 」

 Fくんは、その柿を観察した。白濁した目、開いた口には妙に白い歯が並んでいる。

 「これって、人間の首」

 Fくんは思わず干し柿を揚げ捨てた。

 目の前では、小さな干し首が、ゆらゆらと規則正しく揺れている。

 どうやら、ワイヤーで首をつった人間の首から下が、腐って落下したものだ。

 残った首は、乾燥し干し柿のようになっていたのだ。

 あの日以来、Fくんは干し柿が食べられないという。

監修:山口敏太郎事務所

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